ふたーば

マルクス・エンゲルスのふたーばのネタバレレビュー・内容・結末

マルクス・エンゲルス(2017年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

マルクスとエンゲルスの熱い友情!みたいなドラマチックな内容ではなく、『共産党宣言』誕生秘話という感じ。NHKのつくった再現ドラマみたいな意味合いが強い。

BLっぽい展開なのかというとそうでもなく(全くないわけではないが)、あれやこれやに追われたりお金の心配したり恋人とイチャイチャしたりしながら共産党の華々しい誕生に至るまでの二人の奮闘を描く。

見どころはマルクス、エンゲルスそしてマルクスの奥さんの語学力の高さ。マルクスはドイツ人、エンゲルスはイギリス人だけど、あるときはドイツ語で、あるいはフランス語で、そして当たり前のように英語でかなり細々とした政治議論を展開する。左翼は元々(あるいは今でも)めちゃめちゃインテリ思想なのだけど、特別感なく平気でマルチリンガルな議論をする様にアジア人としてはちょっとおお……と感動した。

ただそこが左翼的政治理念の弱点でもあるわけで、そういうインテリ特権みたいな多言語のやりとりを聞いたエンゲルスの奥さん(この人は主要登場人物の中で唯一の労働階級)が見かねて「え?で、結局どうなったの?」と聞くシーンがあり、これがちょっとした笑いを生み出すシーンになっている。でも、それって本当に「笑える」ことだろうか?だって、労働者のための運動なら本来この人が一番中心に来なきゃいけないんじゃないの?

終わり方もなんかすごい。これは自分の無知を恥じるべきところなのだけど、マルクスらは既にあった労働者向けの政党をほぼクーデターのような形で乗っ取ってしまったらしく、それがそのまま世界初の大規模な共産党の結社になってしまうのだ。

その勢いに乗って今や岩波文庫でも読める名著『共産党宣言』の執筆に彼らが取り掛かり、それが形になったところで幕。エンディングは世界恐慌、毛沢東、チェ・ゲバラなど、比較的「光」の共産主義・社会主義の資料映像をバックにボブ・ディランが"Like a Rolling Stone"を高らかに歌う構成で、これにはさすがに爆笑してしまった。ここまでやっちゃったら、もう立派なプロパガンダじゃん。

まぁなんか、共産主義の良いところと悪いところの両方が堪能できるところはとても良いと思う。良いところはもちろん、当時歯止めのなかった資本主義という猛獣に対する強烈なアンチテーゼを提示できたこと、そしてその後の歴史を通して、今に至るまで人権という概念の普及に間違いなく貢献し続けていることである。

悪いところは、エンディングをみれば一目でわかる。それはつまり独善的で端的に言って自己批判能力を欠いており、にもかかわらずいつまでたってもヒーローを自称してやまないその傲慢さである。
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