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マルクス・エンゲルスのTSのレビュー・感想・評価

マルクス・エンゲルス(2017年製作の映画)
3.8
【産声をあげた共産主義】80点
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監督:ラウル・ペック
製作国:ドイツ/フランス/ベルギー
ジャンル:歴史・ドラマ
収録時間:118分
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2018年劇場鑑賞46本目。
これは中々の良作。そして先程気づいたのですが、同日見た『私はあなたのニグロではない』と同じ監督で驚きました。やや専門的な用語が飛び交うため全ての人にオススメできませんが、マルクスとエンゲルスがどのようにして共産主義を作り上げてきたのかがわかる伝記映画です。歴史や経済学に興味のある方は一見の価値ありかもしれません。ただし最低限共産主義か何かはわかっておいた方が良いでしょう。

マルクスが完成させた『資本論』は19世紀を代表する大著であり、間違いなくこれからも残り続け語り継がれる歴史的著書であります。ただし頗る難解。僕も大学生の時に物は試しでチャレンジしてみましたが挫折。これを読破して理解してる方は素直に凄いと思います。その前身となる『共産党宣言』はまさに共産主義の在り方、そして経済とは何なのかというものを記しています。18世紀にイギリスが産業革命を迎えてからは、その大量生産に追いつくように市民を労働者として利用します。労働者と言えば聞こえは良いですが、一日20時間働くのは普通レベル。少年もお構いなく労働者として利用され、驚くことにこの時期の少年たちの平均寿命は15歳であったとも言われています。いわば、資本主義は新たな形で「奴隷」を生み出してしまったのです。

この資本主義こそが階級を生み出し、貧富の差が生まれる根源であるとして、マルクスとエンゲルスは非難していきます。階級をなくし、普く人が同じくらいの財産を持てば良いと。平等に生きることが人類の目指すべき道なんだと。そう彼らは唱えました。共産主義というと頗る印象は悪いですが、思想だけでいうとある意味全人類が目指すべきものでもあるのです。ただし、あまりにも理想すぎて理にかなっていない。共産主義は極端に言えば、汗水流して働いた人と、一日中ニートで家にこもりっぱなしの人には等しい富を与えるべきだと主張したものなのです。となれば、誰もが働くことをやめてプー太郎になってしまいます。これで生きれば良いかもしれませんが人間も生き物。食わないと生きていけません。生きるために食う。食うために働くのです。無論、マルクスとエンゲルスの時点ではここまでの思想ではなかったと思いますが、その思想を巧みに変幻させた国家が後に登場し、平和・平等の下、国民を押さえつけていくのです。
ともあれ共産主義=駄目な思想と思うのは早計です。あくまで理想論程度で考えていただいたら良いかもしれませんが、とにかくこの当時、それ程にも資本主義というモンスターが労働者を苦しめていたということは否定出来ません。

世界史近代史を勉強された方は今作に出てくるメンツを見て鳥肌が立つのでは。マルクス、エンゲルスだけでなく無政府主義のプルードン、そしてバクーニンも出てきます。彼らが何者かよくわからないまま受験勉強で覚えた記憶がありますが、こうやって躍動的に出てこられると素直に感動してしまいます。そしてラストの共産党の結成も鳥肌がたちます。まさにゲーテが吠えたような「ここから、そしてこの日から世界史の新しい時代が始まる」が脳裏によぎりましたよ。

ただし、最初から最後までほとんど会話劇なので本当に興味のある方だけにオススメ。特に共産主義は何となく悪の集団と思っていた方に見ていただきたいです。実態はともあれ、歴史を辿れば共産主義とはその時代に苦しめられた人たちが主張した、人間の理想を表したものなのです。
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