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マルクス・エンゲルスのarinのレビュー・感想・評価

マルクス・エンゲルス(2017年製作の映画)
4.3
19世紀の描写も見事な、"理想家"たちの青春映画

なぜいま、マルクス=エンゲルスなのか。
冷戦時代はとうに終わりを告げた。
資本主義国が生き残り、ソビエトは解体、中国は実質的に資本主義国と化した。共産主義国家は無残なかたちで終わったのである。

この映画はマルクスとエンゲルスがなぜ共産主義宣言を生み出すにいたったかを克明に描き出す。
倒産を怖れ、資本の拡大を延々と続けようとする資本家たち。資本家のもとで、奴隷労働を強要される民衆。小さな子どもも、昼夜を問わず働かされた。
そんな現代のブラック企業も真っ青な人権無視の状況があって、そんな苦境から民衆を救いたいという理想家たちが集まって火花散るような論争を交わしあった。かつてそんな時代があったのだ。そんな理想家たちのなかで台頭していくのが、この二人の男である。

虚弱ながら豪気なマルクスと金持ちの息子ながら共産主義者という矛盾に悩むエンゲルスのキャラクターは魅力的だ。
舞台装置は見事としかいいようがなく、19世紀ヨーロッパの世界をそこに描き出している。
転がる石のように社会や世間に翻弄されながら、マルクスとエンゲルスのふたりは歴史に残る、ある有名な一文を書き上げる。――共産党宣言だ。

物語はそこで終止符が打たれる。これがハッピーエンドなのかはわからない。ご存知のように、共産主義国家はアフガン、資本主義国家はベトナムといったようにいくつもの悲劇を演じることになるからだ。

エンディングは、ボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」。ボブは歌う。一文無しになった、昔は派手だったある女の現状を。

ポスト冷戦の世界を我々は生きている。世界はどう転ぶのか。なんであれ、今日の金持ちが明日の貧乏人になるような不安定な社会だけは御免こうむる。
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