140字プロレス鶴見辰吾ジラ

映画プリキュアスーパースターズ!の140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

4.0
”インフィニティ・ウォー”

「日本よ、これが映画だ!」
という挑発的な謳い文句をつきつけられ
しかしそれでも日本には、俺たちには
「世界よ、これがプリキュアだ!」
と言いたい意地があってもよいと思う。

GWのアベンジャーズ映画公開を前に
70分という尺を使っての対抗馬を見たという印象。

序盤はコミカルにギャグを入れての戦闘シーンによるスロースタートな印象から「アベンジャーズ全滅!?」的なシリアスモードな危機に彼女たちを陥らせて、現時点で使用可能な「キラキラプリキュア アラモード」「まほうつかいプリキュア」の2チームの世界設定を使っての構築を目指します。

構築に必要な要素としてアメコミ的な印象のある要素を入れてきたように思えるので、何となく「インフィニティ・ウォー」への対抗意識があるのかと勘ぐってしまう場面があるのですが、ある種エンタメ的にクラシカルな要素を取り入れている趣もあります。今作の敵のウソバッカという酷いネーミングセンスの相手がいますが、闘い的には負けそうになると許しを請いながら、反撃してくるという往年の名プロレスラーであるリック・フレアーを髣髴とさせる手法を使います。ここで「リック・フレアーってやっぱ世界最高だな」と心でポツリと思いつつも、敵の造形は「パンズ・ラビリンス」のペイルマンのような出で立ちで、次元に扉を開けて、怪獣映画のような構図から地に降り立つ、プリキュア世界には似つかわしくないスタイリッシュさがあったのは個人的に好印象。プリキュアサイドの変身シーンも尺を圧縮するために冒頭はここまでのシリーズに比べて思いっきり端折りますが作品のクロスオーバーのワクワク感を出すためか、人間体でのアクションも結構はコミカルに楽しさ重視で演出してきますね。HUGプリとキラプリ勢が出会うときに、キラプリ最終回とキュアエールの顔見せ登場のエピソードをTVシリーズから流用していたのは嬉しかったです。ここで赤ん坊が台車に乗って傾斜を下っていくシーンは、いっそのこと「アンタッチャブル」のオマージュでも良かった気がなくもないです。

作品の中盤までは一方的にプリキュア全滅を描くシーンになってしまうのですが、驚いたのは「まほうつかいプリキュア」のマホウカイの出し方でしたね。異世界と現実を行き来できる彼女らが作品の都合上使えることとあり、「マイティ・ソー」におけるアスガルドの役割を付与させることとなり、今作の解決策のキーとして、クロスオーバーできるプリキュア制限の中で、良い役割を持たせています。「マイティ・ソー:バトルロイヤル」にて魔術師のドクター・ストレンジが絡んできたように相性が良かったイメージですし、先に挙げた「マイティ・ソー:バトルロイヤル」にてヘラが虹の橋を使って追いかけてくるシーンのオマージュ的?な要素とミラクルライトを組み合わせていたように見えたのも興味深かったですし、クライマックスの敵の強大化と火の海のイメージはラグナロクのシーンそのものであったような気がします。

今作の敵が主人公のはなが過去に約束を破ったことによって増幅した怨念であるのですが、冒頭の敵キャラの登場でステップ演出に使う雑魚敵がいなかったため、コミカルからシリアスを一手にウソバッカ一体にさせたことで、爽快さと陰鬱さの狭間で機能不全に陥っていたことが残念。サノスくらい強大な初期設定にしておけばよかったのですが、ワンマン経営の失敗的なニュアンスが伝わってしまいました。それでも強大すぎる敵のためある方法を使って原因を断ち切りに行くというのもアメコミマナーのような気がしました。

尺の関係でキャラを絞って動かし、残りをコメディテイストで濁す必要もあったため、キャラの掘り下げやキャラの絡みは最低限に抑えながらも各キャラの個性は生かしていましたし、むしろ機能させにくいキャラクターであるシエルやはーちゃん(前シリーズの追加戦士組)は置物状態にしてキャッチーさとネタ要素の強い、あきら×ゆかりの組み合わせはしっかり顕在化させていたのが少々カーテン裏が透けて見える場面でもありました。

クライマックスはデビュー2年目とは思えない引坂さんの芝居でエモーションを引き揚げながら、全滅!とおいう危機からの解放による爽快感含めパワープレイへ移行。ここで全チームの変身&名乗りシーンをもってくるので心の中でカタルシスを求めてしまいますが、エモーションの流れはバンクで分断されるので、ある程度歌舞伎要素と割り切らないと厳しかったりします(笑)。敵を倒すキーとなる今作のオリジナルキャラのクローバーの行方の扱いにくさもありましたが、ミラクルライトの存在をシャットアウトしつつ、「魔法少女まどかマギカ」のラストに通ずる概念化と主人公の名前にひっかけた落としどころを最低限取り入れ、感動要素あるクライマックスのエモーションシーンへつなげたのは良かったと思います。

アンバランスな部分やファンサービスとしてのキャラの掛け合いの不十分さは、70分尺で求めすぎな部分があるので、そこはカットしながらも「アベンジャーズ」を引っ提げるハリウッドに対して、日本のヒーローモノの代表格としてプリキュアを位置付けたい意地を感じさせる一作。エンドロール後の「HUGとプリキュアはこの秋、劇場版で帰ってくる」(特別ゲストを加えて)という期待値のあるクリフハンギングも含め、興味深い作品であったと思います。