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万引き家族のツのネタバレレビュー・内容・結末

万引き家族(2018年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

駄菓子屋のおじさんに「妹には(万引き)させるなよ」と言われたことで芽生えた祥太の倫理観が擬似家族を内側から壊してしまう。それが祥太のこれからにとっては、 安全な住居があり、学校に通えて、客観的に普通の、倫理的な生活が待っている。
一方で、亜紀は信頼していたはずの初枝を疑うことになる。
りんは元の両親の下に戻り、ベランダに出された。
信代は刑事の言葉に自分の愛情に自信を失ってしまい、祥太を遠ざけてしまった。
治は祥太の父でありたい一方で、信代の行動に同じく自信を失ってしまって祥太にこれまでの愛情を保証できなかった。
作中の大人たちは擬似家族の構造に限界を感じてしまい、子供には本当の肉親が必要だと思ってしまったが、経緯はどうであれ、私は擬似家族の生活が愛情によって成り立っていたと信じたい。信頼足りえる大人であれば、肉親だけが親ではないと思う。
後半において、その信頼できる大人かどうかを祥太は治と信代に問うたんだと思う。それに正しく、清廉な答えを出せなかったために、家族は崩壊した。

誰かに何かを教えたい、共有したいと思うことは愛だと思う。
治は万引きしか教えられなかったが、これまでの関わりは、パチ屋の駐車場の車に置き去られた子供だった祥太の、親であったことに間違いはないと思う。信代も同様に。
強がりがあって、治は祥太を「置いて逃げた」ことを肯定してしまったし、そのリターンで、「おじさんに無理やり引き止められた」「わざと捕まった」と言った。強がりで、本当の家族だなんて思ってなかったよ、と言っているように思えた。

今作品では、亜紀以下の子供たちはそれぞれ希望を見出したラストだと思う。
祥太は「置いて逃げようとした」「おじさんに戻る」と言った治に、バスの中で「お父さん」と言葉にはしてないが呟いた。
りんの境遇はつらいけど、母親の言葉に首を振ることができた。ベランダの隙間からしか見れなかった景色を、一段上がって柵の上から見ることができた。

映画が終わっても、登場人物の今後に考えを巡らせる、考える余地をくれる作品。彼らのこれからは、鑑賞者の中でまだ続くのだから。
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