ダイナ

万引き家族のダイナのネタバレレビュー・内容・結末

万引き家族(2018年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ベイビーブローカー鑑賞前に2018年パルムドールに輝いた是枝監督作品を鑑賞。是枝監督、役者の演技をリアリティに撮るのが本当に上手いです。序盤の生活風景の所作や話し方を見て誰も知らない鑑賞時の印象が想い出されました。万引きで生計を立てる人間が家族も万引きするという構造、求心力が薄いように思えますがとても洗練されたタイトルだと気付かされます。

日常の一コマ、自分の人生経験の中に無い光景でも違和感を感じさせられない出来事の数々に唸らされます。カップ麺にコロッケ入れたりだとか散らかった爪とかメリットdisとか朝勃ち相談とか背中のネギとか身近な人が亡くなった時のリアクションが大号泣でなく呻く感じだとか、もう至るものがノンフィクションに感じてしまいまして。

不道徳な生活の中、父性や母性、それに類する親愛的なつながりがコミュニティ間で存在していたと思えますが、成長による倫理観の芽生えや思考の変化による気づきでそのつながりは強固なものでなくなっていきます。初枝他界後からその辺りは顕著になって描かれています。初枝の遺産ではしゃぐ2人を見つめる翔太の表情、2人にも多少感情移入していた自分もリンクしてしまいます。家族離散からのそれぞれの視点はキツいものがありました。警察と信代の母親問答。直前の実母の口調と警察の高圧的な態度を配置されると信代にバイアスかかって見えるのは置いといて、やりこめられ言葉を絞り出す信代。安藤サクラの演技がとても素晴らしかったです。信代の母親としての考えの吐露も印象的ですが治と翔太の冒頭から終盤を通して関係は変わっているものの日常的なやりとりは変わらない所も印象的です。

外向けの情報だけ受け取れば誘拐犯となる家族に矛先が向きますが、りんがベランダに放置され部屋の中からの母親の暴言。そして他人から優しさを受け取り自発的なコミュニケーションも取れるようになった過程を観てきた観客側としては一概にかりそめの家族を否定できますでしょうか。自分としては一蹴することはできず心に引っ掛かっています。被害者が本当にそれを望んでいたのか、関係者が溜飲を下げたいだけなのではないか。しかしりんが元の家庭にいるのはいけないという見方もまた一方的なのも否定できません。「誘拐」は犯罪、それを前提とした上で、その犯罪が何をトリガとして生まれたのか。関係者の思惑、特に中心となる被害者の心情を第一に寄り添いたいです。

ハッピーエンドな夢物語にせず現実的なラインで絶望だけ残さない終わらせ方をした所も好みです。賞を獲ったといえどシンプルなタイトルとポスターから感じる日常系の雰囲気から期待値は薄めでしたが、随所のミステリー要素、家族とはと投げかけてくるメッセージ性、役者の好演等さまざまな要素が絡み合いぐんぐんと引き込んで来るとても素晴らしい作品でした。

本作に触発されてどん兵衛にコロッケ入れたらとても美味しかったです。この作品は映画としても素晴らしいですし半信半疑だったコロッケそばの美味しさも知れて人生観を広げさせてもらえて思い出の一作となりました。
ダイナ

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