このレビューはネタバレを含みます
本作で描かれたのは、万引きしている家族の話ではなく、万引きしていること以外は「普通」の家族の話だったんだと思う。
ほかにいろんな犯罪もしたけど、でもやっぱりそれ以外は「普通」の家族の話だったんだと思う。
描かれたのは、家族の日常だ。
そして是枝監督に日常の風景を撮らせたら、ほとんど右に出る者がいないのだ。
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「あいつだって、何かやらせた方があの家にいやすいだろ」
自己中心的な考えかもしれないが、一理あると思う。子どもだって、何か“役割”があったほうが居場所ができるものだ。治なりの優しさのつもりなんだろう。
ひとつの家の中に、ちゃんと自分の居場所があるってことが大切なのかな。
居場所があれば家族じゃなくても家族だし、居場所がなければ家族でも家族じゃないのかもしれない。
ラストにりんが見せた物憂げな表情。
本当の家族のもとへ無事帰ってきたりんに対して、私が抱いた思いは「可哀想」だった。
ここに、りんの居場所はないから。
それはきっと、りんにとって本当の家族は柴田家だったことの証明なんだと思う。
みんなでご飯を食べ、
みんなで花火の音を聞いた。
みんなで海へ行った。
ここに、みんなの居場所があった。
思い出があった。
「わたし、楽しかったからさぁ。こんなんじゃおつりが来るくらいだよ」
あぁきっと、
柴田家は家族だったんだよなぁ。
だけど、やっぱりこれだけ人様に迷惑かけまくっている人間が、仮にハッピーエンドになってしまっては許されないだろう。
その点、柴田家にしっかり罰がくだるあたり、感情的にも整理はつきやすいのかも。
柴田家の幸せに終わりが来ることは、当たり前だということが寂しい現実。
公開:2018年
監督:是枝裕和(『誰も知らない』『そして父になる』『海街diary』)
脚本:是枝裕和
音楽:細野晴臣
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、城桧吏、樹木希林
受賞:カンヌ国際映画祭パルムドール、日本アカデミー賞最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞・最優秀主演女優賞・最優秀助演女優賞・最優秀音楽賞など8部門、キネマ旬報ベストテン第1位・読者選出第1位ほか。