えむえすぷらす

劇場版 幼女戦記のえむえすぷらすのネタバレレビュー・内容・結末

劇場版 幼女戦記(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

原作の設定は一度検索して概要は把握。原作、アニメとも未鑑賞ですが第一次、第二次世界大戦の独、ソ連、アメリカあたり知っていれば何をモチーフにしたか分かるのでその点は特段問題にはならなかった。

本作を見る限りドイツからナチスや皇帝の要素抜いて消毒しましたという建前で成り立っている。だから不自然なぐらい国の元首の姿は出てこないし触れない。

主人公の転生前のソ連共産主義に対する憎悪、敵意が大変強く冷戦期のアメリカ人かよと思ってしまった。スターリンやベリヤといったおかしなリーダーを引き合いに共産主義を全体主義とミスリードしたまま揶揄している。主人公はしばしばプロ的な意識を云々するが、そういう本人こそもっとも感情的な憎悪を表明していてこのような今時ありえないぐらい古臭い反共主義にどう落とし前をつける気なのか不思議になった。それぐらい思想的に偏った主人公描写になっている。

戦争が外交の一手段で済んだのはせいぜい19世紀まで。第一次世界大戦で起きた総力戦はもはや外交手段ではなく相手を倒すまで行う強者の世紀の幕開けでもあった。ナポレオン戦争前後の「戦争」とはもはやあり方が違っていた。
戦争へのロマンチシズムと紙一重の「戦争は感情ではなく合理的に行うもの」というのも間違い。実際には憎悪としか思えない民族浄化など行われてきた歴史は度々繰り返されている。また太平洋戦争において我が国の将兵が連合国捕虜を殺害した事案では進駐軍による捜査の上で裁かれている。抵抗できない相手を殺害する行為が戦争でしばしば起きるのはなぜか真摯に考えた事がなければ戦争のプロなるロマンチシズムに酔えるのだと思う。
「敵を憎む」問題、劇中ある人物配置で語られる仕組みはありますが、少なくとも本作中で何も解決はせず今後のエピソードに持ち越しになっている。この種のロマンチシズムからの酔いに冷めるのかそのまま肯定するのかはこのシリーズの倫理観を示すバロメーターになるだろう。

個人的にはきちんとした第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけての欧州の歴史を描いた歴史書を読んだ方がもっとスリリングだと思う。「8月の砲声」「マルヌの戦い」あたりがオススメ。

スターリン独裁体制の問題は去年公開された「スターリンの葬送行進曲」といい指導者の問題はアメリカの冷戦二極化世界の解釈の中で歪んだものがまた出てきていて本作主人公の歪んだ反共主義者ぶりもその例外ではない。スターリンやベリヤについてソ連内部ではどう受け止められていたかは1960年代に東欧のソ連向けの学校にも通っていた米原万理氏の小説「オリガ・モリソヴナの反語法」が詳しい。こういう問題は古臭い米国視点ではなく当事者がどう思っていたのか調べるべきだろう。本作はそういうフックにすらならない蔑視と罵倒があって極めて遺憾。