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祈りのhasseのレビュー・感想・評価

祈り(1967年製作の映画)
4.6
演出5
演技4
脚本4
撮影5
照明5
音楽4
音響5
インスピレーション4
好み5

○「人の美しい本性が滅びることはない」(作家ヴァジャ・プシャヴェラの言葉)

テンギズ・アブラゼ監督「祈り三部作」の一作目。

ここまで一つのショットの虜になったのは何年ぶりだろう? 日光を浴びて輝き、風に波打つ草原が前面にたっぷりと広がり、遠くに悠々たる山の稜線が見える。草原の向こうから、白い衣を纏った背の高い聖女が手前に向かって歩いてくる。草原、山、空、聖女、全てのマチエールが調和した、完璧なショット。一ミリたりとも文句のつけようがない、本当に完璧なショットだ。

悪魔の登場も、聖女と正反対に真っ暗闇からぬっと姿を現すという演出。
アルダも含めた象徴劇はイングマール・ベルイマン監督っぽい。

アルダが村の慣習に逆らって征伐したキスティ(ムスリム)の腕を切り取らなかった罪で家を焼く、と申し渡される。その直後にアルダの家族五人が大雪の中を進んでいくロングショットが凄まじい。

アルダが罪にまみれた現実に耐えられなくなり、聖女以外は全て幻だといいはじめるのはいい感じに狂ってる。聖女は処刑されるが絶望のさきの微かな希望に一縷の望みを託そうとするのがよい。

台詞は一部を除いて役者が直接喋らず後から足されている。結果、主人公だけではなく複数人のモノローグが(時に最早誰の台詞か分からないものも含めて)交錯・反響する独特の映像世界が繰り広げられる。

正直、神への信仰を持たない自分には、この映画の本質的な核の部分に手を触れることができなかったような気がする。だが、宗教的で荘厳な映像詩に心奪われた貴重な体験だったのは間違いない。
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