戻り川藻鳥

Girls of Cinemaの戻り川藻鳥のレビュー・感想・評価

Girls of Cinema(2018年製作の映画)
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約9分間ワンカットで撮られた「女の子映画宣言」。空間の片隅に押し込められたかのように座り込む3人の少女を、波に揺られたように揺れるカメラが捉える。さらに街歩く人の波を想起させる雑踏の環境音がオフで響くことで空間を切り詰めていく。箱舟的な空間。そこで発さられる台詞は全て英語だが、アフレコのため音声と口の動きとのズレが生じており、それが観客に焦点を定めさすまいと揺れるカメラの運動と相まって、3人の少女を不透明なヴェールを介して観ているかような遠さの感覚が去来する。

その感覚は、サニーデイ・サービスの「パンチドランク・ラブソング」が鳴りはじめ、少女が街を駆け出してからも消え去らない。というのも、疾走する少女を捉えた画面に名だたる映画人たちの名前がドデカい文字で次々と重ねられていくからだ。躍動している少女たちの身体に映画人たちの名前によってヴェールがかけられる。横溢する字幕と揺動するカメラが、少女たちのダンスを「見せること」を拒む。

本作の焦点は、ダンスを「見せること」よりも、ダンスを「すること」それ自体にあるのだと言えるかもしれない。街頭ビジョンの映像のような、他者の視線によって見られ消費されるためのダンスではなく、「じぶんのために、踊りたいって願う女の子」による自分本位のダンスであり、そのための場所と時間とが映画によって与えられる。

映画のラストでは、音楽と字幕とが画面から消え去り、少女たちの息切れを画面におさめていく。画面のヴェールが取り去られ、画面に「体温」が戻ってくる。ここではじめてリアルな身体性が画面に表出することで、彼女たちは確かに自らの踊りを踊りきったのだという感触のみが余韻として残される。
戻り川藻鳥

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