じゅ

アヴァのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

アヴァ(2017年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

おい少年海で人がいっぱい泳いでるとこにしょんべんすなよw

アヴァ役のNoée Abitaは『午前4時にパリの夜は明ける』のタルラの俳優さんなんだ。


そのアヴァ、13歳の少女の夏休みの話。少女は視力を失いかけていた。視野が狭まり、夜盲になり、やがて何も見えなくなると診断された。そんなアヴァは、ワケアリそうな青年ジュアンが連れていた黒犬を連れ去り、ルポと名付けて飼うことにした。そのルポをきっかけに、犬の元の飼主が腹を刺されて海岸で倒れているのを見つける。
ジュアンは自身が住んでいたキャンプから追放されていた。ジェシカという女を巡ってイスマエルという男と争ったことが原因らしい。ある日、再びイスマエルと争い、腹を刺された。海岸で倒れていたところを、自分の犬を連れ去った少女に助けられた。少女は夜盲で、夜には全く目が見えていなかった。
やがてアヴァとジュアンは行動を共にするようになる。顔や体に粘度を塗りたくって変装し、ジュアンの持っていた銃で海に来ていた客を相手に強盗を働き、そしてある夜結ばれた。次の朝、2人を捜していた警察に見つかるが、銃で脅してその場を凌ぎ、そのまま他の客のバイクを強奪して逃げた。2人はかつて娯楽施設だった廃屋にたどり着く。ジュアンは車でどこか遠くへ行くと言う。その車と鍵は彼がいたキャンプにあるのだそう。近くイスマエルとジェシカの結婚式があるので、手伝いとして忍び込んで鍵と身分証を取ってきてほしいとアヴァは頼まれる。
キャンプに入り込んだアヴァは、結婚式の手伝いをしつつ頼まれた物を探した。夜になり、ようやくジュアンの身分証入りの財布を見つけたが、車の鍵が見つからなかった。そんな時、ジュアンとイスマエル、そして捜索願が出されているアヴァを捜す警察がキャンプに踏み込み、イスマエルが逮捕された。混乱に乗じてジュアンがキャンプに忍び込み、アヴァと合流すると協力して脱出した。2人手を繋ぎ歩く夜道、1台の車が彼らの後を追ってきた。ジェシカがジュアンに彼の車を渡すためだった。ジュアンがアヴァを車に乗せると、ジェシカはベールをアヴァに手渡した。ジュアンが車を走らせる。やがて夜が明ける。朝日が照らすジュアンの顔をアヴァが見つめる。


少女と少年がどこに行くかもわからぬままどこかに行く流れに帰着したか。そんなんどうしようもなく好きだ。
果てしなく将来が広がっているのに社会的な無力さゆえ破滅的で、自らが行く道を切り開こうとする力強さがあるのにそれまでいた場所の閉塞感とか居場所がないかんじから逃げる弱々しさもあって、アヴァなんかには彼女がいなくなったら超悲しむ(現に捜索願を出している)母親を捨てる心残りが少なくとも視聴者である俺にはあって、それなのにかそれ故か、わけわからんほど綺麗で感情を揺さぶってくる。

それに、べつに2人の間には愛があるわけではないんだよな。ジュアンはジェシカについて「彼女のことを忘れたことはない」と言っていたし、アヴァもたぶんジュアンに対して「愛しているわけじゃない」と言った。なんと脆い関係よ。
まあでも、芽生え始めてはいるのかな。現にジュアンはアヴァを車に乗せた。家に送り届けるには夜明けまで随分長いこと車を走らせているので、母親のモードさんのところに娘を送り届けているようには見えない。一方のアヴァも、ジュアンに向けた笑顔は彼との旅に希望とか期待を膨らませてのものなんだろうなと思いたい。
ジュアンはイスマエルとの結婚式で身に付けていたウェディングベールをアヴァに渡していた。かつて特別な関係だった(であろう)ジュアンと旅立つ彼女に、彼を託したというようなことかなと思ってる。
全くわからん将来へ若人が旅立つ幕引きに毎回思うことだけど、2人に幸あれ。


アヴァの家の中とか、ジュアンと出会った海岸の"要塞"の中とか、バイクで逃げた先の皆に忘れ去られたような大きな廃墟の中とか、ジュアンの出身のキャンプの中とか、どこかの中にいる描写が記憶のほとんどを占めているけど、廃墟で一回アヴァが母親に電話した直後、キャンプへの道中の外の画がまじで文字通り一瞬息止まるくらい綺麗だった。
手前から奥にまっすぐ続く道路が画面の真ん中をブチ抜いて、石と杭と線でできた柵が左右を縁取り、草焼きでもしたみたいな鮮やかな橙の向こうに森や田んぼの緑が広がる。道路のすぐ横には今は使われていなさそうな線路が道に沿うように伸びていて、かつて駅のホームだったような足場が打ち捨てられている。遥か向こうには倉庫のような建物と何かの塔が建っていて、しかし人や乗り物の類の気配すらない。そんな中をジュアンがバイクを引いて歩き、アヴァが犬を連れて行く。

画自体が息を呑むほど綺麗だけど、この道にはなんか淋しさというか物悲しさを感じさせる仕掛けがあったような気がしてる。
ジュアンがガス欠か何かでもう走らせることができなくなったバイクを打ち捨てるように寝かせる。後ろを歩くアヴァがジュアンを呼び止めてBGMの曲を口ずさんで踊る。ジュアンは煙草を咥えながらアヴァの踊りを眺め、また前を向き直して歩き出す。後を追うアヴァは道に1頭残された白馬に近づく。馬の右目は潰れているらしく出血している。
この道って、移動手段の墓場みたいなものだったのかな。かつて駅だったらしい場所があって、ジュアンがもう走らないバイクを捨てて(強奪された人にはたまったもんじゃないが)、おそらくあの馬ももう馬車を引けなくなってあの場所に放置されたのかもしれない。

でも、その道路を通って車を取りに行くっていうのがなんかすごくいい。車って2人それぞれの将来を切り開くために必要なもので、そんな重要な車を2人で乗り物の墓場を通って協力して取りに行くのってなんかがんばれって思う。


なんかもう結末とか画のエモさで忘れかけてたけど、アヴァは視力を失いつつあるんだった。既にもう夜は全く見えない段階まで進行している。大変だねとしか言えん。
ランドセーリングのインストラクターのマチアスが"黒の乗手"のことをアヴァに話すところがあった。黒馬に乗った警察のこと。マチアス曰く、ここは地獄で「この世は終焉に近づいてる」のだと。たぶん、この瞬間からこの黒馬の警察は本作における「世界の終焉」のアイコンになったと思う。(わからんけど、少なくともあの警察が幼児を撃ち殺す悪夢を見ていた辺り良い印象のものではない。)そして、アヴァにとっての世界の終焉とは、完全に視力を失って世界が闇で満たされることなのかなと思う。そんなことを思ってみると、ある夜にルポを盲導犬代わりにして家を出てジュアンに会いに行ったときにこの"黒の乗手"がすぐ後ろを歩いていたのがすごく印象的で、世界の終焉が確かにすぐそこに迫っていることを思わせるようになっていたのかなと感じる。

アヴァは、確かに近づく世界の終焉についてどう思っていただろう。マチアスに、アヴァが怖いことは「醜さしか見ていない」ことと吐露していた。母親のモードに悪態をついた時は、「悪意が眼球を焼いているんじゃないか」みたいなことを言われていた。母のスカーフで目隠しをして、全盲になった場合のトレーニングをしていた。ジュアンには見えないことは怖くないと言っていた。まるでアヴァは、やがて視力を失う定めに打ちひしがれながらも、しっかり受け入れたというか、なんなら視えることの負の側面を嫌がるかのような態度だった。
でも、ジュアンと出会ってしまったんだよな。彼の顔を見ていたいというようなことを言っていたっけか。すぐに顔を忘れてしまうからまた会いたくなると、日記で。花瓶に刺した色とりどりの花々すら色褪せて見えていたのがすごく印象的だったけど、ついに世界の中で見ていたい何かを見出したわけだ。朝来てジュアンに手錠をかけた警察に銃を向けて手錠を外させて、警察を振り切ったところが良かった。初めて自分達を捕まえにかかってきた「世界の終焉」に争ってみせたという風に見ることができる気がする。

たぶん、受け入れることと諦めることは違うんだと思う。当初アヴァの態度はきっと諦めの方だった。(あるいは自棄とでも言えるだろうか。)その諦めを捨てて、争ってみることができたのはたぶんでかい。争った先で、初めて正しく受け入れるということができるのかもしれん。
アヴァ、悔いの無いよう世界の姿を記憶に焼き付けてくれ。
じゅ

じゅ