大道幸之丞

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドの大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

「タランティーノの集大成」とも言われる本作は、やや人気が下降気味のスター俳優リックをディカプリオが、スタントダブルで寄り添うクリフをブラッドピットがと、いままでありそうでなかった2人の初共演を実現させている。

物語はこの二人の、利害はありながらも無二の親友関係と、1960年代最後のきらびやかなハリウッドの象徴として、これからまさにスターダムに上らんとするミューズとして、ポランスキーの妻マーゴット・ロビー演じるシャロン・テート。この2つの視点でストーリーは進んで行く。

そして本作の壮烈なラストに繋がる当時のヒッピー・ムーブメントも主人公へ絡む形で伏線を織り込みながら追ってゆく。

ストーリーの軸足はほぼクリフだ。スタントマンという、スター俳優に頼らざるを得ない立場だが、ベトナム戦争帰りで「人殺し」の影もちらつくクリフは、女好きだが硬派で勇気もあり、注意深くもあり、何より信義を重んじる姿勢はこの映画を観る誰しもが「他人とは思えなくなる」と思う。

スター俳優とハリウッドの日常をまるで我々が当事者のように追って流れてゆく展開と、「何か不穏な萌芽」を感じさせつつ、カウントダウンが始まりラストに繋がる描写はタランティーノ躍如といったところか。

この映画にタランティーノは様々な、極めて個人的でもある「念い」を幾つか込めていると思う。戦闘が好きと思われがちなタランティーノが実は「不条理な暴力」を憎悪し、「ハリウッドの一時代を終わらせた」かのようなチャールズ・マンソン事件を決して許してはいない。

その為に出来る事として、生を謳歌しているシャロン・テートをどこまでもまばゆい存在に描きたかったし、自分の手の中だけでは生かし続けておきたかったのではないか。

そして──タランティーノの分身はクリフの愛犬ピットブル“ブランディ”だったのではないだろうか。

あれだけ容赦なきまで暴漢に噛みつくし、その上で最後までリックの妻を守る姿に「もし俺があの事件の現場にいたなら決して彼らを許しはしない」との幼少時代からの怒りをあの執拗すぎる(リックは火炎放射器で焼きさえする)ブランディの攻撃と描写にそう感じさせられてしまう。そして観ている我々も思わず「もっとやれ!」と加担してしまうのだ。

本来救いようなき残忍極まりない史実を織り込むにあたり、全体的にコミカルニュアンスで撮られている事もまた我々にエンターテイメントとしての救いを与えてくれていると思う。