mickey

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのmickeyのレビュー・感想・評価

4.0
正直、自分はタランティーノ作品の過剰な暴力表現が得意ではありません(過剰と過激は違うと思っています)。
特に『キル・ビル』は胸焼けしました。
しかし、タランティーノは『イングロリアス・バスターズ』で悲惨な歴史をフィクションで塗り替える手法を考え付きます。
これが個人的に良かった。過剰な暴力描写があっても「被害者のことを考えればまだ納得できる」となったからです(ただ、逆に自分が被害の当事者に近いと「不謹慎だ!」となるだろうから難しいですね)。

そういうわけで
本作は『シャロン・テート殺害事件』を元にしていますが、個人的には事件の詳細を知ってから映画を観た方が良いと思います。検索をすれば、詳しく解説されたサイトがたくさん出てきます。残忍で救いようのない事件に気が滅入りそうになりますが、タランティーノが映画化しようとした想いも理解できると思います。

話の主軸は、落ちぶれた西部劇スター(ディカプリオ)とスタントマン(ピット)の友情。勝手に邪推しますが、レオナルド・ディカプリオもブラッド・ピットもタランティーノ作品に出ましたが、どちらもアンサンブルキャストの一人でそんなにスポットライトが当たっていませんでした(特にブラッド・ピット)。だから、タランティーノはそのお礼に今回美味しい役をプレゼントしたのかなと思います。
そして、本作のブラッド・ピットは輝いていました。
彼は過去作品を振り返ってみても、相棒が女性よりも男性の方が作品の魅力が増す俳優だと思います。
レオナルド・ディカプリオも過去作にはない弱さと人懐っこさがあり、中盤まではサスペンスのない日常が続きますが、魅力的な二人の掛け合いが心地良かったです。
タランティーノのインタビューによると、往年の西部劇スターと仕事をした時に彼がスタントシーンを提案してきたので、提案通りに追加したらしいのです。本番の日、その西部劇スターと共に仕事をしてきたスタントマンが仲良く二人で会話している姿を見て、本作の脚本を書いたのだとか。
恐らくデヴィッド・キャラダインだと思われますが、泣ける裏話です。

マーゴット・ロビー演じるシャロン・テートは、幸せ絶頂で微笑ましいエピソードが続くだけに、彼女に感情移入すればするほど複雑な気持ちになりました。ハリウッドを駆け上がっていくシャロンと、落ちぶれていくリックとクリフの関係は、光と影のように対比させているのでしょう(劇中でも新しい価値観と古い価値観が光と闇のように描かれていると思う)。
その三人が最期に交わる優しいエンディングに、タランティーノ作品には珍しくグッときました。

本作を観ると、シャロンの元夫ロマン・ポランスキー監督に対するタランティーノの思いも随所に感じられます。しかし、これを撮る際にポランスキー監督から何も許可を取っていないというのは残念でした。せめて確認をしてほしかった。

P.S.イタリアの映画館で鑑賞しましたが、劇中でディカプリオが「イタリア映画はクソだ」と言う度に、館内が微妙な空気になるのが最高で笑ってしまいました。まぁ、ディカプリオ自身もイタリア系だし、結果的にリックはイタリア映画に出演して成功するので、観客も不快にはならなかったでしょう。
しかし、なかなか味わえない映画体験でした。
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