Moriuchi

グッバイ、リチャード!のMoriuchiのネタバレレビュー・内容・結末

グッバイ、リチャード!(2018年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

CSで観ました。
序盤の、
「喜びで本を読んだことのない人、(教室を)出てってくれ」
という主人公(ジョニー・デップ演じる大学教授)の台詞で惹き込まれました。「喜びで本を読んだことのない」大学生なんているのかよ、って思いますが、今の時代には、そういう大学生はたくさんいると思われます。
中盤、
「なんで離婚しないの?」
という娘からの問いに、主人公はこう答えます。
「歳をとると、責任をなすりつけ合う相手が必要になるんだ。自分の人生が悲惨になった責任をね」
確かにこの世の中、愛し合っていないのは言わずもがな、パートナーを侮蔑したり、あるいはパートナーからの侮蔑にすら気付かず現実逃避を決め込んでいたり……そういう哀しいカップルはたくさんいます。
己の人生の禍福の根源は、本当のところ、自分(が積み重ねてきた業)にあるという真実に気付きつつの侮蔑や逃避ならまだしも、その真実にすらいっこう気付かず「なすりつけ合い」を続ける男女も少なくありません。それでも別れない理由のツートップは「子ども」と「経済」でしょうが、それらが本当は正当な理由なんかではなくダサい言い訳に過ぎないことにも薄々(あるいは明確に)気付いている。気づいていて、目を逸らし続ける。人生の核心から目を逸らし続けているのだから、毎日の現実は、否応なく、澱み、くすむ。本作の主人公もそういった人種の一人で、くだんの娘には、
「パパとママのようにはなるな」
と諭します。真顔で、です。自分の悲惨な現実を認知できる理性と知性は失っていないのです。
しかし残念なことに、(肺がんを宣告されて)余命短い彼は、それからも酒、薬物などの力を借りて、現実逃避を続けます。死が近づくにつれて覚醒したかのように、ときどきかっこいいことを言ったりもするんだけど、いつも酔っ払っているので、そこに説得力や迫力は宿りません。
作り手(シナリオ)は目一杯「泣かせよう」としてくるのですが、僕には最後までこの男が「リアルから逃げ続ける人間=反面教師」にしか映りませんでした。
とことん残念な中年男をジョニー・デップが見事に演じきっています。彼が主演でなければ、観てられなかったかも知れません。
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