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ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3のスペクターのレビュー・感想・評価

4.4
個人的にアメコミ映画史上一番エモい作品。 
予告編でspacehog の「meantime 」が流れた時点でウルッときた。

ゾブリン星人の刺客、アダムによりロケットが命の危機に瀕し、ピーター達が彼を救おうと奔走する。
サノスから虐待され、殺ししか知らなかったあのネビュラもすっかりガーディアンズに馴染んでいるだけで地味に感動。

ロケットが89P13と呼ばれていた頃の回想シーン。前作に続いて毒親というモチーフが出てくる。
ハイ・エボリューショナリーは「完璧な種と完璧な社会を作る」を名目にロケットを被験体としてあの姿に変えた張本人。ロケットは同房でできた友達と新しい世界に住めると信じて彼に従ってきたが、その期待は完全に裏切られる。

今回のヴィラン(敵)、ハイ・エボリューショナリーはジェームズ・ガンのこれまでの作品に出てきたヴィランの集大成と思わせる存在。悪辣で、現実の世界にもある強欲資本主義の延長にある思想を持っている。役に立つか立たないかだけでモノを見るタイプのマッドサイエンティスト。ピーターが「おい、ロボコップ野郎!」と言ってて、確かに見た目は似てるけど、やっていることは真逆。
演じているナイジェリア生まれのイギリス人、チュク-ディ・イウジが良い!
声、見た目が強く印象に残った。彼のキャリア史上最大の当たり役なのは間違いない。 上手く行けば、サミュエル・L・ジャクソンの後継者になれるかも。

そんな生みの親の抑圧(重力)をはね除けたロケットは自らのアイデンティティーを高らかに宣言し、反撃する。ロケットはジェームズ・ガンの分身で、本作は彼の物語でもあったわけだ。

動物を都合良く改造し、著作権、所有権を独占している今回の敵組織オグルコープはディズニーへの当て付けとしか思えない。まあ監督が受けた仕打ちを思えば、こういう設定も許される。知らない人は検索を…。
ただ、それがあったからこそライバルのDCがすかさず声をかけて「ザ・スーサイドスクワッド」という傑作が出来たわけで。そしてDC の方に移籍することになったわけだ。
でもファンや俳優達のおかげでガンは再び3作目の監督に戻れた。だから本作は自分の作品である「ガーディアンズ」をディズニーから自らの手に取り戻すのだという気概がひしひし伝わった。
キャスティングを見てると本当ガンは自分の作品に出てくれた俳優達への恩を忘れないなと思う。

今回は疑似家族を前作よりさらに拡大させ、救いを仲間だけでなく、ありとあらゆる生物にも差しのべる。まるでノアの方舟を彷彿とさせる終盤。
倫理観がちぐはぐっていう人もいるが、中盤のカウンターアースの住人を救えなかったからこそ、ロケットが自らのアイデンティティーに目覚めたからこそ最後、悔いのないように全ての者を救う、誰のことも置いていかないという考えになるのは自然な流れだと思う。
不完全ではぐれ者の集まりだったガーディアンズなりの答えだと解釈した。
ただ、カットシーンを見てやはりと思ったけど、ハイエボ(略)は結局殺さず、情けをかけて檻に閉じ込めた。これが後に災いになる予感がする。

キャラクター全てに活躍の機会を与え、敵だったアダムにさえチャンスを与え、愛おしく感じさせる。
ワンピースのフランキー風に言うなら、「うお~~~~(泣)アライグマも、女キカイダーも、2代目笛吹き矢男も、サイキック犬も、金ぴか男も皆好きだ~~~~!」

ガーディアンズは解散してそれぞれの道を歩むことになったけど、離れていても家族だと誓い、つかの間の平和を享受する。無理に引き留めず、お互いのありのままを尊重することにしたわけだ。特にピーターとガモーラ。

ジェームズ・ガンならではの悪趣味やギャグも炸裂させ、他の人間が手を加える隙がないようにキレイに終わらせてくれた監督には感謝。

2023年のアメコミ映画のヒット作はこれだけかもと、これ以降はアメコミ映画疲れがどんどん進むんじゃないかという5月頃の予感は結果的に当たっていた。
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