シネマスナイパーF

クリード 炎の宿敵のシネマスナイパーFのレビュー・感想・評価

クリード 炎の宿敵(2018年製作の映画)
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パンフレットを読んでいたら、スタローンが「マイケルを見て驚いた、筋肉が浮き上がっていて素晴らしかった」だとか「ロッキー4当時のドルフ・ラングレンは1000年後の人類の姿」など笑わざるを得ない発言をしている

すっごい上から目線の物言いになってしまうけど
よくやったと思う
かなり頑張った
前作がロッキー大好きマンの僕から一生の半分ぐらいの涙を掻っ攫っていった傑作で、ハッキリ言って出来過ぎだったから、かなり分が悪かった中で最良の作品を作ってくれた


正直に言う
良い悪いの話ではないというエクスキュースを前に置いた上で、一本の作品としてのインパクトは、シリーズでも弱い方だと思う
ただ前置きの通り良い悪いの話ではない
この作品は、実はシリーズ全体を包括するという地味にヤバいことをやってのけている

忘れちゃいけない、何があっても絶対に倒れない、諦めないという精神は、アドニスとヴィクターの両方が持ち合わせている
ひとりの責任ある大人として生きていかなければならないというテーマ、手にしたチャンプの座に対する主人公の葛藤、続く因縁、そして離れてしまった家族との再会と、まさにロッキーシリーズを凝縮したような物語

観る前は、「闘わなきゃいけないヤツがいる」といった趣の暗さすら少し感じる鬼気迫りすぎた物語だと勝手に思っていたので、「己の人生において『戦う』ことの意味」を真正面から描かれて悪くない裏切りを覚えました
アドニスが我が子をとある場所に連れてきて慟哭するシーンは、なんでやとツッコミたくなるけど、彼自身のアイデンティティが我が子を前に思わず溢れ出した不思議な名シーン

そんな中で特に際立ったのは、ドラゴ親子の物語
正直物足りないけど、最低限の描写で充分伝わる程の痛み
思えば、ただのミュージックビデオじゃねーかと思っていた4は、最終的にドラゴが己のために戦うという熱い展開だった
その後の彼が今のような状況まで落ちてしまったことを考えると泣けるし、そんな父と一緒に無念を晴らすべく健気に頑張ったヴィクターとの関係は泣かせる
ロッキーが行わずに後悔した行動をイワンは別のニュアンスで行い、そこから新しく明るいドラマが見え始めたという素晴らしい脚本
スタローンやラングレンが語るように、「父親の罪」についての物語であり、登場する親父たちが再び人生を見つめ直す物語で、それはアドニスも同じだし、なんなら、この作品はアポロすら相対化する
ドルフ・ラングレンとスタローンを見て、アクションスターは歳をとると無条件に演技が上手くなる法則でもあるんかと疑いましたよ


じゃあなぜ薄く感じるのかというと、いい要素を詰め込んである分、どうしても各エピソードに「もう一歩なんだよなぁ…!」と思わざるを得なかったから
ぶっちゃけ、いいエピソードが並びすぎていたばかりに散漫な印象を持ったって言ってしまえばそれまでではあるし、それならいいじゃねえかって話だけどさ

今回はロッキーのテーマを流すタイミングに納得いかんかった
ヴィクターが立ち上がってアドニスを睨んだ瞬間とかの方が今回の目指すところとして燃えると思うんだけど
「俺たちには、ここに立つ理由があるんだ」、という部分をリング上で最高に膨らませて欲しかったのよ…ちょっと物足りない
ロッキーが「俺も今度こそは引き際だな…お前らで次の伝説作れよ」と文字通り完全に一歩引いた目で全てを見つめる今作品で一番泣ける名シーンは、アドニスとヴィクターが魂削って殴り合う展開が熱量を持てば持つほど、ロッキーソウル継承として更に際立ってた思うんだよな
ちょっと展開を助長するにしては安直すぎてガッカリな使い方だった


色々と書きましたが、監督変わってるし絶対駄作だよと勝手に決めつけていたら思いの外人間が描けている良品で、もしかしたらクリードシリーズは続編を信用していいシリーズになっていくかもしれないと思いました
何よりも、クーグラー監督が信頼している若い新人監督が、こうして素晴らしい続編を作ったという流れが健全
クリードシリーズが、魂を受け継ぎながら、いつかロッキーシリーズを超える伝説になるかもしれないという期待を込めて