藍色

イヴのりんごの藍色のレビュー・感想・評価

イヴのりんご(2017年製作の映画)
4.2
女性器切除/女子割礼(FGM)根絶を目指す運動を描いたドキュメンタリー。

無知の怖さ、教育の重要性がひしひしと伝わってきた。

この映画を見るまでFGMのことについてはほとんど何も知らなかったし、かろうじて抱いていたイメージも実情とはかけ離れていたと気づかされた。

映画前、FGMに抱いていたイメージは、

・女子割礼っていうくらいだから割礼の女性版かな?割礼は男性器の包皮切除だから、FGMは陰核を覆う膜を切るとかかな?

・割礼と同じく、ユダヤ教とかのアブラハムの宗教にも多い?

・古代の風習で、近代までアフリカやオセアニアの未開地域に残っていたとしても1900年代にほぼ根絶されたのでは?

程度のものだった。

実情としては、FGMはアフリカを中心に行われている、通過儀礼としての女性器切除だった。麻酔なしで切除を行い、拒否するならコミュニティから「臆病者」と村八分にされる。

切除される部分は陰核のみor陰核+小陰唇or陰核+小陰唇+大陰唇。切除のタイプは部族によって様々らしいが…そんなことしたら普通死ぬのでは??

聞いただけでも痛い。女性の陰核は男性の陰茎に相当するので、男性器丸ごと切られる痛みを思い浮かべれば近いものがあると思う。それを麻酔なしって正気の沙汰とは思えない。

実際、FGMの通過儀礼における死亡率はかなり高い。FGMを行う年齢は幼児から10代前半まで様々らしいが、FGMを施された3歳の子供が瀕死で病院に担ぎ込まれそのまま死んだ例もあったとか…

しかも切除に使うカミソリは使い回し&消毒なし。錆びているものもある。だから感染症の原因になっているし、もし切除される女性の1人にHIVなどの感染者がいたら、そのカミソリを使った人は全員感染することになる。

FGMの弊害は切除の際の痛みと感染症だけでない。生理や排泄の度に激痛を伴うし、排尿にかかる時間も伸びるらしい。

性行に至っては、陰核が切除されていて膣口が開かないことが多く、その場合、初夜の際には膣口を再びカミソリで切り開いてからそこに男性器を突っ込むことになる。もちろん麻酔なし。下手な拷問よりも酷い…

更に、性器が切除されているので精液を溜められず妊娠の可能性も下がるし、FGMのせいで不妊になっている人も多い。出産の際にも、産道が開かず帝王切開を行わないと母子ともに死ぬことになる。

儀式を行う側の言い分としては、「快楽を享受する器官があれば、ふしだらな女になるから行なっている」らしい。

いや…その切除する器官は生殖に不可欠なものだけど…純潔意識以上のデメリットがあるのに何故続いてるのか??

儀式に疑問を抱かない者たちは、FGMに伴う死や感染症や不妊、出産時の死亡率の高さを、全てFGMによって起こるものだと知らなかったと言っている。

FGMの儀式を行うのは村の女で、FGM師は給料がよく尊敬される仕事らしい。しかし、FGMが何を引き起こすのか、自分がかつて施され、今まで施す側としてやってきたことがどういうことか知った後は反対運動に身を投じた人もいる。

FGMには家父長制が強いている悪習、という側面もある。FGMの儀式を終えた女性は「女になった」として学校を辞めさせられ、会ったこともない人と結婚することになる。大抵の場合、結婚相手は高齢男性だ。教育の機会を失い、痛みの中他人の所有者となった女性は自尊心を失うことが多い。

FGMを行うのが部族の年上女性というのも、女性側のFGMへの反発が男性に向かないように、という意図があるとか。

ドキュメンタリーを通じ、知らなかったことだらけで、教育の重要性や世界における人権のあり方について考えさせられた。
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