Tラモーン

アメリカン・ヴァルハラのTラモーンのレビュー・感想・評価

アメリカン・ヴァルハラ(2017年製作の映画)
4.0
"俺にあるのは名前だけ"

イギー・ポップという男のなんとカッコイイことか!この人ほど「孤高」という言葉の似合うロックスターはいないかもしれない。

イギーが自分の価値を試すため、何か新しいことをするためにQueens Of The Stone Ageのジョシュ・ホーミに声を掛けたことから始まったこのプロジェクト。
ジョシュのQOTSAでのバンドメンバーディーンと、Arctic Monkeysのマットを加えての、砂漠での共同生活、曲づくり、レコーディングからツアーに出るまでを捉えたドキュメンタリー作品。

イギーとのアルバム制作とあってメンバーみんながとても緊張して、ナーバスになりながらこの仕事を引き受けたという吐露が前半ひたすら続く。
だってイギーだもんね、うるさい音楽やってるよって自覚がある奴だったらみんなStoogesからの彼の功績は知らないわけがないし、影響を受けてないわけがない。

それでもイギーの謙虚で柔軟な姿勢と、砂漠での寝食を共にする音楽づくりの中でメンバーの絆が深まるにつれ、その結果の化学反応で素晴らしいアルバムができていく様はとても面白い。

この最高のプロジェクトをアルバム制作だけで終わらせたくなかったジョシュの提案でバンドはツアーに出る。

そのリハーサルの最中に届くデヴィッド・ボウイの訃報。

言うまでもなくイギーとボウイは友情以上の特別な関係だ。
しかしイギーは止まることなく、悲しみを乗り越えバンドとツアーに出る。

この作品の本質はここに詰まっていると感じた。イギー・ポップという男はとにかく前に進み続ける男なのだ。

「音楽を始めた1000人の人間は最初は一生懸命でも、金を十分稼いだら人畜無害な音楽しかつくらなくなる。でもそれを68歳でぶち壊した男がいる。彼は一生懸命音楽をつくったんだ」

このプロジェクト自体がイギーのフロンティアスピリットこそのものだと思うし、インタビューで「仕事し続けないと生活が不安だ笑」なんて言ってるのも彼の創作意欲の裏返しなのだろう。

「手を抜いたと思われるのは嫌だ」と笑い、68歳になっても客席にダイブするのをやめない彼こそ、孤高のロックスターと呼ぶに相応しい。


QOTSAはあんまり通ってなくてこの映画ハマるかなと心配だったけど、十分楽しめた。ジョシュの豊かな才能がイギーのバイタリティを後押ししたのは間違いないし、この4人が一緒に生活しながらアルバムをつくる過程はとても面白かった。

イギーとジョシュが、アークティックのドラムをバックにLust For Lifeを歌うなんて贅沢過ぎる!

どんな音楽をやろうとも、彼のユニークな姿勢とスピリットはぼくにとって常にパンクのゴッドファーザーです。

でもでも、ライブ中はめちゃくちゃ迫力あるのに、ステージを降りたら小柄でニコニコしたおじさんになるイギーは可愛過ぎでした笑。
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