この作品は、原作未読のほうが確実に楽しめる「ギャングース」の設定を借りた、まるで別物の映画だった。
恐らく高評価を付けている方達は原作未読の方が多いのだろうとすぐに分かる。(原作既読で高評価の方ごめんなさいm(_ _)m)
前回「キングダム」のレビューの際にも言及したが、原作付き実写化が失敗する主な要因となる地雷を、今作は見事に踏み荒らすような作りをしていた。
まず、原作の漫画は育児放棄の果て、まともな義務教育も受けられず、生きていくために犯罪に走るしかなかった孤児達の姿を、徹底的な取材で裏打ちされた痛烈なストーリーで描いていくのが魅力の作品だ。
何故、少年達は危険溢れる裏社会の中で命を賭して戦うのか、そこに行き着くまでをそれぞれの凄惨な過去と、そんな彼らが目指す未来を交えて展開していくところに湧き上がる熱量があるのだが、今作はそのほとんどを表現しきれずに終わってしまう。
主人公カズキの過去のみ語られる場面は用意されていたが、はっきり言ってそこすら何も伝わらないド下手糞な描写だったし、小学生の頃のカズキをそのまま加藤諒が演じているのも気に食わない。
このシークエンスは、カズキという人物の人格形成をもたらした重要な場面であり、最底辺の生活から抜け出せずもがき苦しむ原因にもなる最重要ファクターだったのに、これではただのギャグパートではないか。
また、先程もお伝えしたように、原作は徹底的に裏打ちされた取材と情報量が魅力の一つとなっており、ページの余白部分には様々な解説が所狭しと書き連ねられている程濃密に作り上げられているが、今作にはその要素がほとんど活かされていない。
一場面のみ、金子ノブアキが演じる加藤のシーンでその片鱗を伺う事が出来るが、原作ではあんなシーンがずっと連続して巻き起こり、それがこの作品の面白さでもあるのだ。
なのに今作は、そんな裏社会事情などほとんど説明もされず、ただただ金を持ってる悪い奴等から金を奪う事のみがフォーカスされ、何がなんだか理解したようで理解しきれていない展開がずっと続く。
しかも、肝となるストーリーがほぼオリジナル要素で構成されており、原作を踏襲した物語はほとんど展開されず、それはそれで面白くさえあれば許容出来るのだが、それがことの他つまらない。
クライムサスペンス系の作品には2つの描き方があり、1つは「その行為を痛快にエンタメ性を全開に描く手法」。
2つ目は「静寂を駆使して画面に冷たい質感を持たせ、犯罪行為に対する重みを助長させる手法」がある。
今作は圧倒的前者であるが、演出力の弱さ、音楽の使いどころの弱さが悪目立ちして、どうも観ていて面白いと感じない。
また、原作はどうやってタタくのかしっかり作戦を立てて行動するのだが、今作はほぼその場の運任せに金を奪おうと躍起になる展開ばかりだし、申し訳程度に出てくる作戦自体もかなり説得力に欠けて弱々しく、爽快感や戦略性を楽しめる画作りが今ひとつ出来ていない。
それにしても、原作には一切出てこない女性の裸体をむやみやたらに登場させるところを見ると、そもそも裏社会のイメージがズレているのかそれを表現するレパートリーが乏しすぎる。
そういった点で言えば、この題材を取り扱うセンスをそもそも持ち合わせていないんじゃないかとまで疑う程だ。
そして一番いけなかったのが、登場するキャラクターの解釈をことごとく間違えた酷すぎる改変だ。
まず、カズキが何故タタキをしているかと言うと、奪った金で孤児の居ない世界を作り、二度と自分のような子供を世の中に生み出さない為に戦っているのだが、映画だけ観た方にはそれすら伝わっていないだろう。
そんなカズキの背中には無数の虐待の傷跡が残っている。
映画では、偶然再会した少年院の知り合いに公衆の面前でそれを笑いものにされ、カズキが肩を落とすシーンが描かれるのだが、いやいやそうじゃない、ちょっと待ってくれよ。
本来なら、カズキはその傷跡を何の臆面もなく見せびらかし「カッコいいだろ?」と言ってのけるのだ。
何故なら、その傷跡は虐待する親から妹を必死に守り抜いたカズキにとっての勲章であり、彼が誇りにさえ思っているものだからだ。
学が無いからこそ、逆にどんな絵空事でも本気で実現出来ると信じて行動する姿こそが、カズキが主人公である所以なのだが、今作はそれを一切表現出来ていない為、少年院でタケオちゃんを庇うシーンにも説得力を持たせられていなかった。
というか、今作での主人公はジャケットの並び順といいサイケに変更されているのか?
だとしたら、尚更擁護は出来ない。
また、宿敵である安達もおかしな改変をされている。
原作の安達は、生きる事に対し常に異常な退屈感を抱いているがゆえ、非人道的な行為を嬉々として繰り返えし、刺激的な事件や出来事に日常的に飢えているサイコパスである。
よって、カズキ達に金を奪われた出来事は、裏社会で恐れられている安達にとっては、普段現れる事の無い敵対勢力の出現であり、本来なら激昂するどころか逆にその状況をゲームでも始まったかのように楽しむ筈なのだ。
だが、今作の安達はそんな楽しむ素ぶりが一切描写されず、ただただキレてボコるだけの狂人に成り下がってしまい、最後らへんは都合よく取り巻きが誰も居なくなり、いきなり3vs1のバトルを始めたところでは小並感さえ感じる始末で、半グレ界最強カンパニー六龍天の最高幹部の信憑性が全く表現されていなかった。
他、加藤もまあまあ酷かったし、サイケやタケオちゃんやユイカ・チャン(ひかり)も、ことごとく原作の魅力の半分も引き出せていないのだが、これ以上語ると枚挙に暇がなくなってしまうので、この辺までにしておこう。
このように、人物、ストーリーの改悪、説明不足、描写不足、読解力不足、解釈不足とあげればキリがないが、ここ近年は漫画原作の実写化映画も非常に頑張っている印象があった為、久々に原作レイプものを観させられた気分であった。
あと、最後のラーメン屋の外観長回しはなんだったの??