アリ

ひめゆりのアリのレビュー・感想・評価

ひめゆり(2006年製作の映画)
5.0
沖縄戦の象徴のひとつ、日本一知られた名前の学徒隊の生存者インタビューを芯に、その悲劇に正面から取り組まれた作品です。

動員される初め、赤十字のもとで看護にあたるのだと思っていた、というテロップにドキッとしました。
当時でさえ民間人のそれも若年者がまさか戦場にそのまま放り込まれ、果ては解散命令という名の切り捨て、放置が行われるなんてまさか、だったのでしょうか。

美しい沖縄の海や丘(つまり悲劇の現場だった場所)を辿りながら、語り得ない体験が語られます。
私達の目に映る景色、彼女らが見ている景色はきっと違うのだと思わされてしまいます。

彼女たち自身にもきっと、その体験はいつまでも整理のつかない側面を持っていて、その戸惑いや苦しみと「語らなくてはいけない」という使命感とないまぜの言葉が、また見聞きする私と語られる出来事を引き離すように思える時もありました。
カメラは、その距離を辛抱強く追い続けます。

美しい島の底に沈んだ夥しい血を、私は想像すら上手くできないけれども、でもカメラは、その語られる痛みの中、彼女たちに寄り添うようにふと、その語られている出来事の中に入り込む瞬間があったと感じました。
抽象的にしか言えないけど、見るひとがその瞬間を見つけるための映画だと思います。

追記。
ヒューマンドキュメンタリー映画祭•阿倍野で監督さんのお話を聞く機会がありました。
ひめゆりという悲劇のイメージが知られる一方で、当事者たちは起こったことの語れなさに苦しみ、むしろ体験を隠すように生きられていた方も多かったそうです。
映画の中にもあったように、かつての現場を訪れることも出来ず、証言を残していない方もおられます。
「映画を切っ掛けに沖縄の記念館を訪れて欲しい」とも言われていました。
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