Tully

バイスのTullyのネタバレレビュー・内容・結末

バイス(2018年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

チェイニーとブッシュがそっくりで笑ってしまう。チェイニーは2度の戦争で多くの自国民、他国民を死に至らしめた責任を負っている。笑えないエピソードばかりにも関わらず、コメディとして面白い。そして笑いながらゾッとする。ラストのチェイニーのカメラ目線は怖かった。ブッシュとチェイニーの蜜月関係、黒幕のチェイニーがブッシュを操っているのだと漠然と思っていた。それは事実らしいが、本作では実はそのチェイニーすら妻の操り人形だった、という構造が描かれている。どこまで事実でどこから憶測なのかはよくわからない。ただ、この映画は心情描写はともかく、事件ベース・出来事ベースは事実のように見えた。9.11の政府要職が集結した緊迫の場面に何故か妻 「リン・チェイニー」 が同席している。いくら 「セカンド・レディ」 でも私人が紛れているなんてさすがにおかしいと思うが、信じがたいことにこれも事実らしい。「オリバー・ストーン」 の 「ブッシュ」 では、ダメ息子だったブッシュ大統領の父へのコンプレックスが描かれていた。チェイニーもまたダメダメな若者だったとは知らなかった。むしろ学業面などを見る限りはブッシュのほうがずっとマシな経歴だったりする。超優秀な妻リンがストレートに政治家になっていればどうだったろう。国がもっと酷いことになっていた可能性もあるが、少なくとも政治に志も何もないチェイニーが権勢欲と承認欲求からロクでもない政策を実行することはなかった。本来、のんびりお酒や釣りを楽しむのが好きな田舎のおじさんだったろうに。立場が人を変えるという事実は本当に恐ろしい。謎のナレーター男性は、チェイニーに心臓を奪われ、しかも全く感謝すらされない男だった。チェイニーは自分の心臓を失った。「心のない人間」 という比喩表現を、心臓移植に引っ掛けてそのまま絵にして見せている。ブラックで笑うのだがゾッとする。世界は本当にくだらないことで動いているのかもしれない。役者さんたちの熱演と激似ぶりがもうそれだけでおかしい。娘 「リズ・チェイニー」 役に、「アメリカン・ホラー・ストーリー」 の 「リリー・レーブ」 が出ているのが個人的に嬉しかった。独特の味があるいい俳優さんだと思う。
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