1人のどうしようもないカリフォルニアのロクデナシ(ディックチェイニー)が副大統領になり、自国の国民を何十万人も殺しながら、自身の守りたいもの(利権や家族)を守るようになるまでの生涯を描く。
なぜチェイニーが権力マシーンのように変質してしまったのか?
これをテンポのいい編集・カットバックで振り返る。
監督がインタビューで「人は正しくあろうとするものだ」と語っていて、然りと思った。
悪いことをしようと思ってする人は稀で、多くが言うにやまれぬ理由があって、実行に移す。
それはある一方から見れば悪く見えることだとしても。
チェイニーにはチェイニーの正義があって、アメリカ国民を守っているつもりであったのだろうが、最後のインタビューでは涙ぐんでいる。
ただ、釣りのエサが暗喩的にカットバックされるように、彼が自身のエゴによってブッシュやアメリカ国民を釣ったことはまぎれもない事実だ。
事故で心臓を捧げた彼は典型的な共和党支持者だそうで
戦場でも政治でも身も心も捧げたことをこちらも暗喩している。
だが、彼が自身の石油会社への利益誘導のために、わざわざ矢面に立って戦争を起こす方向へ、権力を握れる方向へ進むとは思えない。
何か大きな、例えば世界に影響力を及ぼそうとする米国覇権主義思想と、戦争をすれば儲かる軍産複合体、ロシアに台頭して欲しくない英国など、複雑に利権が絡み合った結果、彼に白羽の矢が立ったのだろうか?
そこまで掘り下げたものを見たかった。
彼の生涯は分かったが、まだ動機が曖昧。
そこが腑に落とすことができたら世紀の大傑作になり得る。
最後に、この映画とセットで9.11の真実に迫った作品を上映した下高井戸シネマのセンスの良さよ!
平時から戦争になった時、平時ではあり得ない法律が整備され、権力を握ることが可能になる。
国民の恐怖を煽り、核戦争の可能性を語り、「やられる前にやっちまえ!」の議論を作る。
戦争は利権だ。