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生きてるだけで、愛。のcinemakinoriのレビュー・感想・評価

生きてるだけで、愛。(2018年製作の映画)
3.6



“アタシと同じだけアタシに疲れて欲しいっていうのはさ、やっぱ依存?”



生きていく中で誰もが抱える心の内面を〈叙情詩〉のように描いた文学的作品。



趣里が演じる躁鬱を抱える拗らせ女子への感情移入度はかなり低い。
低いどころか終始イラつきっ放し。

寧ろ、そこは求めるべきではないんだとクライマックスやエンディングで納得がいく。
いや、納得と言うと語弊があるが、人間の『道』について非常に抽象的に捉えつつも一つの表現として文学的に落とし込んでいるなぁと、、、高村光太郎のような感じかな。
(作中、菅田将暉に彼の上司が文学的表現は要らねえからなと放つセリフも伏線的サインなのかなと思ったのは考えすぎ?)

つまり、ヒューマンドラマとしてのリアリティや求心力を探るよりも、ポエムやリリックを受け止めるような感覚で触れるほうが受け止め方の幅も広がるし、感性や人生観によって様々な捉え方が出来るような気がする。


この作品のために世武裕子が書き下ろしたというエンディング曲【1/5000】がその最たるもので、楽曲というよりはポエムのような世界観は、この作品そのものを露骨に表している。



印象的なのはやはり菅田将暉。
この映画のキャスティングの中で唯一リアリティある名演技と言っても良いかも知れない。
言い知れぬ掴みどころのない男の表現力は流石だなぁと。
後半へのイントネーションの付け方の演技がズバ抜けて素晴らしい。


唐突過ぎるトラットリアの優しい面々や、仲里依紗の役どころの奥行きの無さや、何故だかスマホでのやり取りのみのお姉さんの件やら、そもそも躁鬱のきっかけとは?
穿り出すと疑問や粗だらけの本作は、上述したように文学的感覚で観る事によって諸々気にする必要もなく、屋上のシーンでの

“イケると思ったんだよね〜”

が、スーっと胸に染み込んでくるしウルっと来てしまうからあら不思議。
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