ひこくろ

いさなとりのひこくろのレビュー・感想・評価

いさなとり(2015年製作の映画)
4.0
原風景のイメージを凝縮した結晶のような映画だと思った。

田舎町に住む中学生ユウタを中心に、そこに住む人々の暮らしが淡々と描かれる。
そこでは、特別なことはほとんど何も起こらず、その淡々としたぶりは本当に日常そのものだ。
それが自然音を重視した演出と相まって、強烈な懐かしさを呼び起こす。

こういう体験をしたことがないにも関わらず、かつてあった景色として感覚できる。
そして、ああ、こういうものが「原風景のイメージ」なのかと思わされる。

圧倒的な懐かしさから生まれてくるのは、景色への憧憬だけではない。
生活している時の感覚、母親の恋人に対する複雑な心情、友だちと過ごす楽しさ。
などなど、これまたかつて経験したかのように、画面から感じられてくるのだ。

かつてこんな場所に自分もいたかもしれない。
これと同じ状況で悩んだり苛立ったりしたかもしれない。
そんなことはないはずなのに、そう思わされることに驚いた。
と同時に、かつて子供だった頃に、このなんとも言葉にできないような、得体のしれない感覚を確かに持っていたことも思い出される。

心情がわかるとか共感するという感じではない。
もっと深いところで、自分が持つ同じ感覚を思い出す、という感じだ。
とても不思議な映画だと思った。
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