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きばいやんせ!私のgintaruのレビュー・感想・評価

きばいやんせ!私(2019年製作の映画)
2.6
ちょっとずつずれている。
南大隅を2年前に旅行したので、その思い出の地がどう映像化されているだろうかと思って見た。しかしその期待は裏切られた。
例えば御崎祭りの出発地の御崎神社は佐多岬にあり、車で行っても駐車場からさらに歩いてたどり着くにもかなりの労力を有するがそういうことは表現されていなかったし、ジャングルの中にある神秘さも今一つ描写されていなかった。またその先には佐多岬展望台があり、そこから眺める景色はまさに絶景だがそれは一切出てこなかった。御崎祭りで回る各所も少しだけ表現されているが、単に鳥居が映されたりするくらいでどういう場所なのかよくわからないままだった。主人公の児島貴子と幼なじみの橋脇太郎の会話シーンも車の中とか夜とか無味乾燥的な背景が多く、せっかくの南大隅の美しい景色を活かすことが考えられていない。ついでに言うと車中シーンも後部座席からの入りが多く、まるで後部座席に誰か人がいるかのように誤解させる間違ったカメラワークだと思う。海辺の美しいシーンや森の中にたたずむ神社などもっと引きで撮ればよいのにと思うシーンがいくつもあった。そういう技法をもっと使えばいいのに使わないのかと思っていたら祭りのシーンではドローンによる上空からの撮影も行われており、ああこの映画は祭りをクライマックスにしたいのだなと感じはしたが、ちょっと違うかなあと思ってしまった。
なぜなら一応このドラマは仕事に後ろ向きだった貴子が南大隅の人々と触れ合ううちに祭りの再興を成し遂げるというところにあるのだろうが、その過程が全然描かれていないからだ。祭りがいつの間にか低迷したのは神輿を担ぐ人がいなくなったということが一番大きいということで、それは太郎がなんとかするということで動き始めると思ったら、次はもう祭りの直前からのシーン。担ぐ人も集まるし観客も来てるという状態。なぜそうなったのかが全く描かれていない。そこが一番大事なんじゃないのというところだと思うけどね。
祭りのシーンはかなり長尺で綿密で、太郎ら若者二人が祭りで主役を演じ切る様子がリアルに描写されている。若者が大きな鉾と傘を必死の形相で上げ下げするのには大変さがにじみ出てくるが、毎年やっている祭りでそんな命がけのものではあるまいに。
しかし残念ながらこの祭り、どう描写したところで小さな神輿を担いで長距離を回るということのみが売りで、神輿などの大きさとか群衆の多さなど他に見るべきものがないのでクライマックスシーンに持って行くには物足りない。神輿を担いで山を上り下りするところが難所でそこでのピンチで撮影班、さらには貴子までが加わって神輿を担ぐのを手伝い、神輿が山から落ちてしまうのを救うというのがクライマックスになるのだろうが、あまりにも予想できる展開でオチもないのでカタルシスが感じられない。
またこの映画には無駄なシーンが多く、自転車に乗るちょっと頭の弱いおっちゃんとか鶴見慎吾演じる自称地方映画プロデューサーとか出す必要があったのかと思ってしまう。特に伏線の回収といったところも見当たらず話を冗漫なものにしただけだったと思う。ただ、映画の中でプロデューサーが投資詐欺で逮捕されたというオチと、実際の映画の興行で大惨敗に終わり地域再生策の一環として南大隅町が1億円を負担したことで町長が責任を問われたという事態が奇しくも壮大な伏線の回収になっているかもしれないというのは笑える。
ラストもなんだか何も解決していないというか一時の祭りの熱狂から平常に戻っただけという感じ。太郎の牛がコンクールで優勝することで盛り上がるのに対して祭りを取り上げた番組は現地でも注目されないという皮肉。一方貴子は吹っ切れてレポーター仕事を続けているというシーンで終わる。いったい何が言いたかったの?
エンディングで実際の祭りの映像が延々と流れるが、映画本編中の祭りのシーンはこれをもっと使えばよかったんじゃないのと思った。
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