シートン

父、帰るのシートンのレビュー・感想・評価

父、帰る(2003年製作の映画)
3.6
圧倒されるような映像美。雨や海のクリアな水音が印象的な音響。俳優たちの無駄のない演技

しかしそれによって表現されているところのストーリーが腑に落ちない。結局父は何者であったか、彼はなぜ突然島に行き、その島のことを熟知しているのか、彼は島で何を掘り起こしたのか、最後までわからない。それがすべて明かされる必要はまったくない。しかし、ただの謎かけではたまらない。

ネットで見かけた批評によると、この父はキリストのイメージを託されて、演出されているという。たしかに水辺の仕事や、突然の復活と死など、そのモチーフらしきものが感じられる。おそらく製作者も意識的なのであろう。

しかしそれが何だと言うのか。ただその象徴性をストーリーの画面に織り込むのは簡単である。父は復活し、磔死した。然り。だが、それだけだ。彼はキリストであるには暴虐でありすぎ、人間的でありすぎた。父がキリストの影を持っていると見る時、そのキャラクターは完全に象徴性と現実性の間で分裂してしまう。

もしその理解しえない他者としての父との関わりが、兄弟に天啓あるいは奇跡として作用し、彼らが精神的に深化を見せるなら、あるいは信仰に目覚めるなら、その変化をこそ描くべきである。もし、彼らがこの事件がなかったものであるかのように生きていくとすれば、父は救世主でも何でもない。ただの名もなき死者である。

審美性と象徴性だけが突っ走ってしまっている
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