とむ

来るのとむのネタバレレビュー・内容・結末

来る(2018年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

「ホラーは不快なものであるべき」

これは僕なりの持論になるんですが、
そう思って作らないとホラー(特にジャパニーズホラー)は真の意味では面白くならないと思うんですよね。
そして製作者がそれを真に理解していないと、やっぱり怖くならないと思うんですよ。
例えばギレルモ・デル・トロがロボと怪獣が戦う映画を「これは絶対にカッコいいんだ!!」と信じて作ったパシフィック・リムが超カッコいい映画になったみたいに。

TSUTAYAに置いてあるビデオムービーとか「恐怖舐めてんのか」ってレベルで恐怖を感じない代物ばかりなので。ト●ハダとか。


それで言うと今作は、昨年の韓国ホラーの大傑作である「哭声」を優に越えているし、
「貞子VS伽倻子」の無駄な部分を全て削ぎ落とし、不快な部分を最大限まで鍛え上げた大傑作だと思います。

そうです。
最近流行りの超能力除霊異能バトルものです。
白石晃士の系譜ですね。


まず、前半の胃がキリキリ痛むような人間ドラマとしての描き方も非常に秀逸で、
これはある意味ホラー版の「君はいい子」や「万引き家族」でもあるんですよ。
どちらかというと後者に近いのかな。
万引き家族のリリー・フランキーが岡田准一で、安藤サクラが小松菜奈です。

結構多いような気がするんですよね、
妻夫木くんみたいなタイプの自称「イクメンパパ」。
SNSでひたすら子供と妻を思いやり、助け合いをしてるように見えるけど、しかし現実では…みたいな。
でもそれって本人からすると悪気がある訳じゃなく、むしろ「家族の為に自分は頑張ってるんだ!」と思ってしまっている。
だからこそタチが悪いんだと思うんですけど、
これって世の中の男性みんなが持ってる勘違いだと思うんですよね。

見る視点によって世界が大きく変わるという見せ方は映画文法として手垢のついたやり口ではあるんですけど、
今作に関してはそこが肝ではなくアクセント程度に留めているので全然素晴らしいと思います。


で、そんな「イクメンパパ」によるリア充家族が今度の中島哲也のターゲットになったと。
「嫌われ松子」のラストの中学生とか、
「告白」のクソガキどもとか、
「渇き。」のかな子の同級生たちとか、
中島哲也監督、毎度毎度リア充や学生たちの描き方に悪意ありまくりますよね笑

余談ですが、松たか子の芝居を見つつ、
「これ、ディズニーでレリゴー歌ってた人なんだよな…」と思いながら観てました。
ガニ股の松たか子最高。


ラストに関しては、正直何も解決してないのでおそらくバッドエンドなんだろうと自分は思ってます。
近いうちにあの世界は滅びますね。
オムライスにかかるケチャップが血反吐にしか見えなかったもん笑


そして、流石普段CMやPVを作っている人だと思ったのですが、
全体的な不快感や怖さの風味がPS2の「かまいたちの夜2」のOP映像に近しい、
日本怪綺談的なおぞましさ・仰々しさを連想させる映像ですごい気持ち悪かったんですよね。
僕あの映像滅茶苦茶好きなので、終始楽しんで観てました。

鎌谷聡次郎もOP映像で参加してたりするし、CMディレクター映画の集大成って感じでしたね。
中途半端に作ってない感じが非常に好感でした。


無駄な部分がとにかくない。
撮影も照明も編集も、設計図で作ったみたいに整理整頓されすぎててむしろそこさえホラーに感じました。

中島哲也の新たな傑作というべきか、
「告白」で評価されていた部分をしっちゃかめっちゃかに掻き乱した「渇き。(個人的にはこちらも大好きです)」から、
更に綺麗に叩き直してくれたという印象でした。


「シン・ゴジラ」や「君の名は。」、
「ガチ星」「太陽の塔」「生きてるだけで、愛。」「来る」。
これ、前者はアニメ監督、
後者はCMディレクターが撮った映画です。
全部映画畑じゃない人が監督の作品です。

掻き乱されてますねぇ、邦画業界。
とむ

とむ