MasaichiYaguchi

クシナのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

クシナ(2018年製作の映画)
3.8
女だけが暮らす男子禁制の山奥の集落を舞台に、本作の速水萌巴監督の過去の体験に根差した本作は、三世代に亘る母と娘の物語を美しい映像で綴っていく。
速水監督にとってこの映画は長編デビュー作になるが、それまでに映画やCMの演出や制作、更に中川龍太郎監督の「四月の永い夢」におけるヒロインの部屋のデザインや装飾に携わったということで、本作でも監督以外に美術や衣装も担当している。
この独特な女だけの秘密のコミュニティに、閉ざされた共同体を研究する人類学者・蒼子が、後輩の原田と共に足を踏み入れたことで、その日常が崩れていく。
タイトルになっている「クシナ(奇稲)」とは少女の名前を意味していて、彼女とその母「カグウ(鹿宮)」の母子の視点で、そこにある屈折していたり、行き違っている愛情表現が浮き彫りにされる。
愛情表現にはストレートなもの、遠回りしていてなかなか相手に伝わらないもの、過剰な為に却って相手を傷付けてしまうものがあるが、この映画にも様々なものが出てきて交錯する。
女性だけのコミュニティを題材としている作品なので、出演している女優達の演技や美しさが見所になると思うが、クランクインの数日前にクシナ役が決まり、本作が映画デビューとなった郁美カデールさんのピュアな魅力、その若き母カグウ役の廣田朋菜さんの繊細さ、そしてカグウの母「オニクマ(鬼熊)」役の小野みゆきさんの迫力には圧倒される。
そして本作のキーパーソン・蒼子を稲本弥生さんが母性溢れる演技でクシナを包み込む。
様々な愛が交錯し、恰も絡まってしまったように見えた時、事態は急転直下、思わぬ結末を導いていく。
彼女ら一人一人が今後どのように生きていくのか、そういったことを思わせるラストが印象的だ。