ダイナ

ヘレディタリー/継承のダイナのネタバレレビュー・内容・結末

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

パーティに向かうドライブシーン、右から走ってくる車をパンで追う映像にてちょうど中央に電柱を捉えたところでパンの移動が止まります。何気なく印象付けられた電柱の存在感が後の事故で「あの時の!」と思い浮かぶ気持ちよさ。ショッキングな恐怖と相まっての名状し難いカタルシスを感じられた瞬間から本作の虜になりました。葬式での言葉や都度目にするマークやワード、全ては明らかにせずとも撒いた伏線の多くを回収する配慮もウレシイ。

本作窓の外のログハウスを捉えた映像から始まり、ペイモン復活を讃えるログハウスで終わる整った構成に美しさを感じます。最後のショットの全体像は、アニーが家系の一場面を再現したジオラマを製作してきた過程を観てきた身としてはジオラマのように見えます。このジオラマ感、手を加えることが許されない美しさ、展覧会に展示されている作品のような「ただただ眺めることしかできない完成された世界」という不可侵領域さにもまた美しさを感じます。そういった「美」、不快なストーリーに関わらず強烈で美しい画作りが盛りだくさんな点が本作の魅力だと思えます。

パーティから事故後の朝までの一連の流れはホラー史に載せたいくらいの強烈さ。事故った時のピーター(アレックス・ウルフ)の顔!表情変わらず涙がタラーっと流れるこの顔!後悔、罪悪感、目を逸らしたい気持ちからベッドイン、からの日常ルーティンに入るはずだった母親の絶叫!トニ・コレットの絶叫が悲壮感をエグいほど際立たせて素晴らしいの一言。吹き替えで観た方は字幕で地声を堪能してみて欲しい。ここ一連の演技、演出、カットによるエモーショナルに訴えかける仕掛けは壮絶。

不明な点も楽しめる派ではあるものの腑に落ちないのはスティーブが燃えた理由。スケッチブックを燃やしたのは直接的に放ったアニーがカウントされないのか。燃やす意志もアニーの方が強くスティーブは無関心(息子の心配>妻の行動)のように見えました。スティーブが血の繋がりの外にいる、儀式の邪魔者という点は分かるのですがこの辺りのルールの曖昧さ、退場の仕方が解けず。燃やした代償は「関わった者全て」で、スティーブにだけ焼死という形で適用されたわけでなくアニーの憑依もそれの内だったのでしょうか。裸のおっさん達に襲わせた方が納得感は強いです。

電柱について少し思ったことを書くと、カルト集団がチャーリーを亡き者にするために動物の死骸放置とセットで仕組んだのは十中八九間違い無いでしょうが、その計画に確実性があるかどうかは疑問です。それを考えるとスピード運転も想定しないと、それではケーキのナッツも…?そう考えると、初めから電柱衝突に誘導されたというよりは、家族の生活圏内でチャーリーを抹殺する仕掛けが他にも至る所に用意されていたという考えが現実的な気がします。案外小学校周辺にあの文字が刻まれた仕掛けが用意されていたのでは。そもそも事故誘発という計画にピーターという器を傷つけない配慮がちゃんとされていたのか。

「何をしても逃れられない運命」というテーマが本作にあるという感想をよく見かけます。(というか監督がそのような発言しているっぽい?)確かにラストショットの雰囲気、どう足掻こうとあの場面に向かわされるような魔性の魅力というか吸引力を感じます。アニーの父(餓死)と兄(自殺)はエレンに最期まで抗いました。そしてアニーも夢遊病に悩まされながらもカルトの脅威に反発した姿勢、スティーブの冷静かつ客観的に捉えることのできる視点と判断といった簡単に靡いたわけではない対カルト陣営の地盤の固さを踏まえると、家族間のコミュニケーションが少しでも噛み合っていたら復活阻止も可能だったのではと思えます。が、そう思えたとしてもまた理解できない力やカルトの工作(やアリ・アスターの執筆)で結局最終的にログハウスに連れていかれるんでしょうね…。ストーリーを単純に追っていくとカルトが一斉に家族襲ったら速攻で片づきそうな儀式ですが作中の通り進行した裏にはまどろっこしい手順、なんらかの制約があったのでしょう。ある程度の誘導は許されつつもグラハム家に能動的に動いてもらいながら精神を削っていく必要があったのではと考えたりもします。

ラストの音楽の神聖さはバッドエンドながら癒しの印象で違うようにも受け取れたり。「チャーリー」と呼ばれた所でもう鳥肌ですね。それを踏まえてチャーリーの発言や行動を冒頭から見返してみるとまた面白いです。終盤ログハウスに身体がす〜っと入っていく所をピーターが目撃する絵面と周囲の全裸集団のシュールさにちょっと笑いそう、てか服着ろお前ら。本作で強烈な存在感を示したミリー・シャピロちゃん、YouTubeで歌ってる動画見たら半端なく上手えなオイ!ってのと本作の印象のかけらも無い楽しげなMV風景に和みます。カルトの癒しなんかいらねえ、歌動画で癒されてやる。カルトに翻弄されるのを楽しむのはフィクションで充分。得た知見は現実で翻弄されないように糧としましょう。疲弊している時、藁に縋りたい時こそ決定的な証拠の無いオカルトに踊らされないように。ペイモンさん、肩慣らしに統治してほしい地域があるんですよ。ホルガ村っていうんですけど。
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