ジュリアン

ヘレディタリー/継承のジュリアンのレビュー・感想・評価

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
5.0
普段、ホラー映画を見ないので終盤は終始おろおろテレビの前に手をかざしたり、独り言喋っちゃってた。怖さを軽減するために父はオイル漏れで死に、その他は精神疾患の多い家系ゆえのホラー演出だと納得させようとした所に、祖母がカルトコミュニティの親玉だったと知らされる怒涛の展開に感情を全て持ってかれる。

中盤までは、父性もなく母をあまり支えられもしない頼りのない父親と喪失を抱えた感情の起伏激しい支配的な母親と、中身のない軟派な長男とで、どんなホラー映画になるのか分からずじまいだったが、まさか女系の呪いを強調する構成だったとは。

「ハリウッドが新しい想像力として『補綴する男性と自立する女性』という様式を生み出したよね」と河野慎太郎さんが本に書いていたけど、こんな悪いとこ取りをするとは想像だにしなかった。すごい。

地獄の王ことピーターがカルト教団からは妹のチャーリーと呼ばれ、あくまで肉体の容器としてしか見られてないなど内面を不可視化されていることが、アリアスターらしい「マゾヒスティックな男性と支配する家父長な女性」という構図がここでも見て取れる。しかも、それを支えるのが、「血縁共同体」であり、「精神疾患」でありという煮詰め方でこんな補綴の仕方あるかよ!と今作も楽しませてもらった。

あと、ホラー映画の癖に非日常感がないことも良かった。これには、オブセッションされている事項が日常的に誰しもが悩みやすい事柄というのもあるけど、ホラー的な演出もヴォネガット風のナンセンスさに回収されてしまうことがリアリズムを支えているような気もする。「スローターハウス5」や「タイタンの妖女」を読んでいる気分になった。

今回、「ミッドサマー」、「ボーはおそれている」を見てから今作にチャレンジしたけど、「ボーはおそれている」を見る前に見たかったな。その方が絶対面白かったと思う。勿体無いことしちゃったな。