ダミアン君に恋してる

ヘレディタリー/継承のダミアン君に恋してるのレビュー・感想・評価

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
5.0

「シャワーを浴びるジャネット・リーを僕の解釈で描きたかった。」─── by Ari Aster


今の私にはこれが全て。
監督のこの言葉だけで胸がいっぱいに…♡

アルフレッド・ヒッチコック『サイコ 』、ロマン・ポランスキー『ローズマリーの赤ちゃん 』、ウィリアム・フリードキン『エクソシスト』、リチャード・ドナー『オーメン』…

連想されるこれらの代表的なクラシックホラー達は、いずれも家庭の中で起こった忌々しい出来事を描いている。

そしてその群に必然的に加わる事となった本作『ヘレディタリー/継承』が与える本質的な恐怖は、圧倒的何かの力によるもの、同じく背筋が凍りつく思い。

「家族であることの恐ろしさ」

ここに『サイコ』にも繋がる感覚を覚えた。父娘、あるいは母息子。家族であるがゆえの歪んだ関係、心の崩壊、疎外感…そこに私が最も怖いと思えるホラーの心理的要素が詰まっている事に気づかされた。

『サイコ』も『オーメン』も『エクソシスト』も、一体何が怖いのか。それは誰もが安らぎを求める《家庭》という安全の地で一番起こって欲しくない不幸が襲いかかるから。日常が非日常へとかわる、その私たちが最も恐れていることを、うっとおしい程に目の当たりに出来る本作は、非常に完成度の高いトラウマ映画と呼ばざるをえない。

私はこの映画を観たあと徒歩で家に帰ったが、いつも見慣れている景色が怖くなった。通い慣れた道、暗闇に光る信号の色、家の窓からもれる光、遠くで光る稲妻、自分が歩く音、木の葉が舞う音、風で何かが動く音、建物の造形、外壁のシミ、雨で濡れた花、薄暗い部屋にかかっている白色の服…

どこからともなくじわりじわりと侵食してくる得たいの知れない恐怖に負けそうになった。自分の家にいて背後が怖くなる感覚は『死霊館』を観たあの時以来だ。

気持ちの悪さが、一晩経っても、今になっても抜けていない。

パンフレットを読んで、この作品を知れば知るほど怖くなる。

これぞオカルトホラーなんだと思い知らされ、このジャンルをよく知る私でも大変ショックを受けている。

本格的なオカルト/サイコ映画はきっと楽しむためにあるのではない。人間の中に巣食う邪悪極まりない部分を吐き気がするレベルで再確認させられる最も悪趣味で美しい芸術作品だと思った。

そしてホラーというジャンルは、この世の全てを見通す力がある一種の呪いのような気がしてならない。

私にここまで言わせた本作。もう一度観る勇気が出ないほどに異常な輝きを放っている。

もしかしたらこれ、この手のジャンルを良く知る人ほど、この作品が持つ本当の恐怖を理解できるのかも知れない。

否応なしに、ホラーという奥深き世界に引きずりこまれる心地好さに身を任せられることこそ自身の最大の喜びだと、本能的に感じている。

本当に参った。

今後も活躍してくれるであろうアリ・アスター監督から目が離せないっっ!!

*☆Keyword*☆
『ドールハウス・イン・ドールハウス』