ぺむぺる

ヘレディタリー/継承のぺむぺるのレビュー・感想・評価

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
5.0
受け継いだのは逃れられない運命。祖母の死を発端に顕在化する家族の秘密、それに翻弄されていく一家の悲劇を描く。先の読めない展開に、全編を覆う不穏な空気、アクロバティックな着地点、そして精緻かつ奇天烈な演出手法が、これまでのホラーにあった「恐怖」をアップデートするかのような怪作。

怖い怖いとは聞いていたがまさかこういう怖さだとは思いもしなかった、というのが正直な感想で、鑑賞中のチューニングにはいくぶん苦労してしまった。実体のない恐怖が恐ろしいのはそのとおりなのだが、方向性すら定まらないとどうしてもうろんな話になりがちで、そんな不確かさをじっとり味わう作品なのかとタカを括っていたら、急転直下あの惨劇である。その後に続くめくるめく恐怖の変遷にも容赦なくぶん回されてしまったが、結局のところ、終盤に至るまであの強烈なイメージに否応なく自分の意識を持っていかれた感がある。

そしてすべてが終わってみると、その見事な構成に舌を巻く。大胆ながらも緻密に練り上げられた脚本は、さりげなくまかれた伏線の数々とその回収といったサスペンス/スリラーの楽しみを十二分に与えてくれるうえ、構築された美しさそのものが一種の牢獄と化しており、〈完璧な悪夢〉の魔力を大いに発揮している。それはいったい誰の夢なのか、端的にいえば「本作は誰の物語なのか」、そんなことを考えながらそれぞれの視点で見返してみても面白いだろう。

ふたたび本作の恐怖について。
ストーリーを素直に眺めるとAという真相が現れる。いやいやこれはBという真相のメタファーなのだという解釈もありうる。どちらに恐怖を感じるか、どちらの真相を受け取りたいか、あるいはそれらを曖昧にするからこそ怖いのか、このあたりは人によって見方が異なるだろう。個人的にはAでもBでもなく、その〈外側〉を感じさせてくれたのが面白かった。すなわち、これはとあるミニチュアハウスに触発されたひとりの男の妄想世界なのかもしれず、そしてそれは恐ろしいことにほとんど真実なのである。笑ってしまうような考えだが、それもこれも本作の珍妙な世界観、奇想とエンタメの奇妙な邂逅に促されての連想であり、あながち的はずれな見方というわけではあるまい。と思うのだが、どうだろうか。

この世界が実は巨人の夢の切れ端にすぎないという妄想は、古来より人類の頭をよぎるモチーフだが、ここには自分が巨人であったことを知る恐ろしさがある。わたしが本作で感じたのは、このような形の恐怖なのであった。
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