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意表をつくアホらしい作戦のblacknessfallのレビュー・感想・評価

意表をつくアホらしい作戦(2018年製作の映画)
3.9
70年代のアメリカで一世を風靡しその後のカウンターカルチャーに絶大な影響を与えた風刺ユーモア雑誌『ナショナル・ランプーン』誌の創設者、ダグラス・ケリーの一代記。
ランプーン誌の存在はそういうものだと知っていたけど、詳しく何も知らないので興味深く観れた。

上流階級の家庭で育ったダグラス(以降、映画の呼称であるダクにする)は両親、特に父親の上流階級特有の選民意識、抑圧的価値への反発からハーバード大学在学中に盟友となるヘンリーとナショナル・ランプーンの原型となる「ハーバード・ランプーン」を創刊。反骨のインテリ学生らしい才気と機知に富んだ紙面は注目を集め、これに気をよくしたダグは父親のような生き方はしたくないと、嫌がるヘンリーを口説き2人で卒業後ランプーンを商業誌として立ち上げる。

ここからランプーン誌の痛快過ぎる風刺が話題を呼び人気誌になっていく。詳しく出てないけどディズニーからフォルクスワーゲン、果てはユダヤ人団体、から訴訟を起こされたと騒ぐシーンからもそうとう過激だったことが伺える。
ミニーマウスにニップレスを付けたセミヌードのイラストが出てくるところから、どういう路線なのかは想像がつく。何より一番おちょくったのがニクソン大統領なのがサイコーだし正しい!いい趣味だと思うね笑
とにかくこの路線が当たり訴訟も増えたがそれ以上にスポンサーも増えダグは成功者になる。
普通の人ならこれで雑誌作り専念するところたが、ダグは違った。野心といたずら心と創造性が過剰な男だった。

ランプーン誌の記事をベースにしたラジオを番組を製作する。この番組からビル・マーレー、チェビー・チェイス、そしてジョン・ベルーシがスターになる。後にサタデー・ナイト・ライブで大スターになる彼等を最初に見出だしたのはダグだった。
順調に見えたが仕事量の多さからコカインに手を出しジャンキーに。奥さんを放置し女遊びに耽溺する。よくある破滅の型にハマっていく…
そして全てが嫌になり失踪騒ぎを起こす😮


【以下 重要なネタバレあり】










結局、半年以上失踪しダグは戻る。その間、仕事を丸投げされたヘンリーはランプーン誌を大金でバイアウトしたことを機にランプーンから離れダグと決別する。
縁の下の力持ちもを失ったダグの持ち前の風刺の才能にも陰りが出てくる。ラジオ番組の仲間達は自分抜きでサタデー・ナイト・ライブで成功してる。
焦ったダグは一発逆転を狙い映画制作に着手する。
この流れだとこの映画も大コケして沈没していくのかと思ったら、この映画『アニマルハウス』だったんだよ!ジョン・ランディスの出世作で興行成績を塗り替え批評的にも興行的に大成功したコメディ映画の金字塔!
調べたらダグは脚本にも参加してるんだよね。やはり才人なんだよなぁ。
そして、次作の映画ではプロデューサーに就任し、かつての栄華を取り戻そうとするが、持ち前のいたずら心と俺様気質から予算も時間も遥かにオーバーして映画会社と衝突し途中で外されてしまう。完成した映画も大コケした…
目的を失い、自らの愚行から仲間も失った(とダグは思っていた)ダグは自殺とも取れる事故死で唐突に亡くなってしまう。

この亡くなる展開、すげぇ驚いたんだよ!本作は現在の年老いたダグが過去を回想する形式だから、画面に年老いたダグが出てきて語るシーンがふんだんにある。だから1980年に死ぬなんてダグのことを知らない人は思いもつかないから笑
手堅く纏まられたよくいる突出した文化人の栄光と破滅の映画って感じで安心して観てたんだけど、こんな罠が仕掛けられてるとはまったく思わなかったよ🤣🤣🤣
不可解な変なタイトルはここにかかってたように感じないでもない🤔

ダグはけっこうミソジニーで身勝手な男で思想性だけは反権力、リベラル的な典型的戦後世代て感じでいやな部分も多いものの、センスがありエネルギッシュに動きユーモアセンスと創造性を次々に形にしていくところに好感を持ってしまう。そして最後まで権威や階級を皮肉るマインドを持ち続けたことに敬意を感じる。典型的と言ったが諦念から身も心も"社会"に売り渡し"賢い選択"をしたあの世代の多くの成功者達とは人が違う。
女性関係がめちゃくちゃで仕事のやり方ももめちゃくちゃ。破天荒な反面、脆く我が儘な男だけど、そこがチャーミングに映ってしまうところが赤塚不二夫先生に似てると思った。
そういう特殊な人じゃないと到達できない特異点超えた表現が確かにあるんだよ。
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