天豆てんまめ

幸福な食卓の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

幸福な食卓(2006年製作の映画)
3.6
「父さんは、今日で父さんを辞めようと思う」
父さんって、辞めることできるんですか?

北乃きいの映画デビュー作。
中3の始業式に突然、父から先程の宣言を告げられ、家庭のカタチが嫌が応にも変わっていく。成績優秀なお兄ちゃんは、大学進学を辞めて農業に進み、お母さんは、家を出てひとり暮らしを始め、それでも、日常の食卓は続いていく。彼女も家族の激変と共に、学校でも葛藤は尽きない。とある転校生男子に心動かされる。転校生は勝地涼。爽やかな好青年が合っている。中盤はこの2人の恋模様交えて。後半、更なる悲劇が唐突過ぎるだろ!とツッコミをいれたくなるが、、喪失の先に彼女が何を感じていくのか、そこが作品の肝。

食卓というと、横並びの「家族ゲーム」を思い出すが、コミュニケーション不全の家族像という意味では、この作品もまたリアルだ。

家族崩壊の悲劇をある枠組みで創り上げた、いかにもな創作感が拭いきれないのだけど、日常が淡々と描かれるそのトーンは悪くない。不安や痛みを和らげる雰囲気がある。ラストシーン、北乃きいの凛とした透明感のある表情が印象に残る。

昔に一度、彼女と話したことがあるけれど、快活、律儀、元気な優等生そのままに、でも大人への挨拶を営業マンのように堂々としていて、その大人びた感じに無理しないといいけども、、と思った。その後の出演作を観ると優等生のカベな感じで、活路を見出し切れてない気もする。ZIPに出たりして認知度は広がったけど、女優としての代表作のようなものはまだ見えない。ある意味、この作品かも。そんな彼女の10年前の素の魅力が詰まっている作品だと思う。

それにしても、父さんって、辞めることできるのだろうか。
私は、死ぬまで、死んでも、辞めたくないけれど。
でも、心が折れる。崩壊するってことは、誰にでも可能性はある。
いつもの食卓が、いつものようで無くなることは、いつだってある。

普通なんてない。当たり前なんてない。ずっと続くなんてない。そう思うと、家族と食卓を囲む日常の幸せをふと感じる。ちなみに昨日の夕食はカレーライス。妻が新たなスパイスに挑戦し、次男は辛すぎて少し残し、長男がそれを奪って食べる。いつもの光景だ。中3の長男は大学に入ったら、東京で一人暮らしをするのが夢だという。既に間取りまで考えている笑 そうか、この食卓もあと3年半か。楽しい時も、哀しい時も、疲れた時も、心をとめて、その日の食卓を味わいたい。