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5時から7時までのクレオのfleurのレビュー・感想・評価

5時から7時までのクレオ(1961年製作の映画)
5.0
鏡越しの大通り、ショーウィンドウ越しのクレオ、馬の足音。タロット占いに火曜日は新しいものを身につけてはダメ、という迷信。堂々とした女性運転手のタクシーでリュクサンブール公園の周りを走る、その光景に懐かしくなった。歌手のクレオのお家は真っ白で広くて、かわいい小さな黒猫がいてかわいい。ベッドにもたくさんの子猫ちゃんたち。潰されないかちょっと不安だった。恋人がクレオの部屋を訪ねると、甘い柔らかな音楽に変わるのクレオの恋する可愛らしい様子が見てとれてときめいた。音楽はミシェル・ルグラン(ピアニスト役は本人!)。クレオは声が低くて良いな、と思った。愛の歌はロシュフォールに出てきたソランジュのコンチェルトみたい。似たメロディー。背景が黒になり別世界へと一瞬だけ迷い込むの、浮遊感が素敵だった。白地に水玉から真っ黒のドレスへ。街ゆく人々がカメラを不思議そうに見つめる視線が面白くて良い。人の波に飲まれ、視線に呑まれ、クレオが逃げ込んだのは小さなアトリエ。恋人には話せない病気のことも友だちのドロテには話せる。クレオはドロテといる時がいちばん自然体で気を遣わなくて良い関係に見えた。ふたりのシーン、好きだった。途中のゴダールとアンナの短編もコミカルでキュ〜ト。これを先に観ていたので、出てくる場面がわかってすっきり。街ゆく水兵のポンポン帽にシスターたちのベール。いまはもうあまり見ない情景。
登場してすぐのアントワーヌがクレオに声をかけてきた時は、静かにひとりでいたところに邪魔してくるような、こういう気分を台無しにするやついるよな〜、と思っていた。のだけど、断られた後はただのおしゃべりになって、病院に行く間もクレオの気分を明るくしようとしていて、2人の空気感は案外良いな、と好きになった。あまり知らない人にこそ話せてしまうことってある。散々探したのにいなかった先生が、車で颯爽と現れて呆気なく病を告知して去っていく、その急に現実に引き戻される様子に笑っちゃった。戦場に行く者と病と戦う者。アルジェリア戦争の時代のフランス。どちらも死に近い。5時から7時までのクレオ、だけど劇中は6時半まで。6時半から7時までのふたりはともに寄り添い、そして別れたのだろうか。
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