チッコーネ

移ろう季節の中でのチッコーネのレビュー・感想・評価

移ろう季節の中で(2018年製作の映画)
3.0
アクシデントを境に表面化する新たな日常を、煽情場面を排し淡々と描く作品。
生活感のない舞台美術が頻出する前半は、照明もよそゆき顔でテレビドラマのようだった。

エンタメ急進国でありながら、LGBTを主題とした作品や、当該キャラクターの登場が極端に少ない韓国では、作るとしても当事者より、その家族の心情に焦点を当てようとする傾向あり。
本作も然りで、息子のセクシュアリティを知り、混乱する母親の心情描写に充分過ぎるほどの時間を割く。
監督は女性なのかと思ったが男性、もしかするとセクシュアリティはゲイなのかもしれない。
韓国の母親が「息子に言われたくないことベスト3」のひとつとして、セクシュアリティのカミングアウトを仄めかす場面も登場…、卑屈とさえ言える「原罪意識」は、作品全体へ濃厚な影を落としていた。
これが邦画だと周囲の物分かりがあまりに良すぎて、不自然に観えたりもするが…、どちらにしても作品全体のトーンを定めるには、監督の揺るぎない意志が不可欠。
本作から韓国社会を覆う共通意識の一端を、改めて窺い知った。

映画よりテレビドラマへの出演が多いイ・ウォングンは、奇跡的なベビーフェイスの持ち主。
本作では笑顔より陰鬱な表情が多いものの、恋人同士がベッドで迎えるよく晴れた日の朝を描いた場面では、本領を発揮している。