ちろる

詩季織々のちろるのレビュー・感想・評価

詩季織々(2018年製作の映画)
3.7
日中合作、若手監督が新海誠監督へのオマージュとして作った様な短編集。
ストーリーは至って平凡だが、映像はどれも透明感があってぼんやり観ているだけも気持ちいいし、この淡々とした流れだからこそ中国の文化や風土を堪能できる。
異国情緒感じる中国の田舎の鮮やかな色合いの家々や、中国の学生服などは忠実にしっかりと描かれているので、旅行してるみたい。
中国の「衣食住」それぞれから純粋な主人公たちが、輝いていたあの頃の思い出のカケラを拾い集めた、瑞々しい青春賛歌。

「陽だまりの朝食」
透き通るような三鮮ビーフン
揚げた目玉焼きや肉椎茸、琥珀色のスープ、弾力のある木耳、丁寧に作られた寡黙な夫婦のビーフンの味は、そのまま大好きなおばあちゃんの思い出となる。
学生時代に通った初恋の香りのする熱々のビーフン。
大好きな香りや味の記憶はなかなか脳裏から離れてくれないから、無機質な都会のビーフンに慣れる事はきっとない。
雨に濡れた路面、太陽の透けた青い空が印象的。

「小さなファッションショー」
あんまり中国か舞台というのが生きていない、良く言えばすんなり入りやすい、悪く言えば既視感のがあるような、美しく清らかな姉妹愛のお話。
人間描写は丁寧なので鑑賞後にホッコリと温かい気持ちにさせられる。

「上海恋」
ちょっと苦々しく残る、初恋の物語。
ストーリーも初期の新海誠節に似ているかな。
若すぎる2人には、住む場所が離れる事は永遠の別れにも近い。
あんなに一緒にいたはずなのに、何気ない会話はもう出来ない。
やりとりしたテープにはあの頃の柔らかい君への気持ちが保管されてるのに・・・
幼すぎて、意地を張ってすれ違ったことは巻き戻せないけど、諦めなければ新しい未来はまだ作れる。
大人になれば住むところも共に歩む人も自分で選べるからね。

はじめにストーリーは平凡と書いたけど、この作品はオムニバスなので、シンプルで毒々しさが無いことが、良かったのではないかと思う。
新海誠の模倣と言われようと、まだ若いこの3人のクリエーターたちが、ここから独自の色を纏い、新たなる世界を作り出して行ことを楽しみにしてます。
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