むーしゅ

タンゴ・ワンのむーしゅのレビュー・感想・評価

タンゴ・ワン(2018年製作の映画)
3.0
 イギリスのCrime Writers' Association主催"CWA Ian Fleming Steel Dagger"にて、2002年ノミネート作品であるStephen Leatherの"Tango One"を映画化した作品。

 タンゴ・ワンという異名を持つ麻薬密売人のボスであるドノバンに接近し、もう少しで逮捕できるところだった捜査官アンディは仲間のミスで潜入捜査だということがばれ、報復として足に障害を負わされる。3年後、アンディはドノバンに復讐をするため、大がかりな罠を仕掛け追い詰めようとするのだが・・・という話。冒頭のオープニングアニメーションが無駄にかっこよく、その後のエバン&アンディがそれぞれ捜査官だとばれるシーンもなかなかお洒落。あれこれ期待できる作品なんじゃないの感がすごいです。

 この作品の面白い点は正義と悪が逆になっていくことです。冒頭のアンディのシーンがなかなか可哀想なので彼に同情してしまい、これから彼の復讐劇が始まるのかと思ってしまいますが、次のシーンで3年後となった直後に一気に形勢逆転。実はアンディにはめられ追い詰められたドノバンが主人公だったことに気づきます。裏社会のボスがとことん窮地に立たされ、彼がその状況をいかにして切り抜けるかを見る映画というちょっと変わった物語構成になっています。また後半のアンディの追い詰め方は正義とは全く言えない方法になっていき、どっちが正義でどっちが悪かわからない状況に進んでいきます。どんなに裏社会で幅を利かせていても私生活は一児の父であり、その辺りのギャップがまた人間らしくてドノバンに共感できます。そして最後にはやはり裏社会の男としてきっちり落とし前をつけており、まさにドノバンに始まりドノバンに終わる映画でした。

 しかし本作は物語がとにかく分かりづらいです。その原因は見た人なら誰でもわかると思いますが、ドノバンを追い詰めるキャラクターがとにかく多すぎることですね。彼が全方位から圧力をかけられ八方塞がりになっている状況を作り出したかったのだと理解できますが、あまりにも登場人物とバックの組織の数が多すぎて、余程真剣に見ないと1回では人物相関図が理解できません。見終えてみると、こいついなくてもよかったな?と思える人物が数人おり、思いきってこのあたりを兼務させる方向で整理した方がすっきりできた気がします。また本来ならアンディの策をネタばらしした時点で、そういうことだったのか!となりたい物語のはずですが、もうその頃には登場人物飽和状態になり、ふーんまぁ先進もうか、くらいの感想しかわかず騙されていた感が全くありません。そしてその後更にドノバンの逆転策で驚くべきなのでしょうが、そちらも特別驚くことも無くシーンとしても流れています。「ソウ」シリーズと同様、実はここがハイライトなのに、物語の強弱の付け方が悪いせいで前後のシーンに同化してしまっており、盛り上がらないまま物語が終わりをむかえます。ストーリー自体は理解をすればなかなか面白いとは思うのですが、役者の癖が弱めで登場人物が入ってこないことと、後半への持っていき方のぐだぐだ感で何とも中途半端な作品になってしまっていました。原作小説はきっとハラハラドキドキな作品なのかと思いますが、映画化に向けてもう少し考えるべきだったのでしょう。

 ちなみになぜドノバンの名前がタンゴ・ワンなのかがよくわからないままだったのですが、これどこかで理由を語られていましたかね?そしてなぜかこの作品は大手海外系映画サイトでも載っていないことがあり、公開時の状況がいまいちわからずです。決して低予算で作られた感じでもなく、なんとも不思議な作品でした。
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