エミさん

希望の灯りのエミさんのネタバレレビュー・内容・結末

希望の灯り(2018年製作の映画)
2.8

このレビューはネタバレを含みます

淡々としているので好き嫌いが分かれそうな作品。

旧東ドイツのライプツィヒ。訳ありの青年が、スーパーの倉庫で在庫管理として働き始めて慣れるまでの話。無口な青年とクセが強い従業員たちの毎日を淡々と追っていき、ラストもオープンエンドであるものの、何だか惹きつけられて魅力ある作品であった。

監督は、せっかくシネマスコープ撮影をしてるのに、わざわざ左右を3m幅にカットしている。秘密めいたようなくすんだ感じの雰囲気作りを心掛けたとのこと。

波の音が流れる瞬間。主人公が恋心を抱いた時、上げたフォークリフトを降す音。海はドイツ人にとって憧れ。自由のメタファー。
オストロジー。オス(東)ノスタルジー(郷愁)。旧東ドイツを懐かしむ気持ちの造語だそうだ。

スーパーについて。「東ドイツ時代は、ここは運送会社だったが、89年に壁が崩壊すると、西の大手企業に買収されてスーパーの倉庫になり、当時、長距離トラックの運転手だった若者は、今やフォークリフトの運転手をしているよ」という説明のセリフがある。歴史の生き証人だからこそ言えるセリフだ。
「何があろうと進んで行かなきゃな…」
ジーンときた。

先進社会からは何処かズレているようなマイペースな印象の個性的な人々が、金を稼ぐという目的の元にスーパーに集まる。
色んな人が居るけど、同じ環境で同じ目的の元、毎日を共にしていくうちに段々と培っていく連帯感というのは、若いうちは分からなかった機微だなぁと思った。
会社にはそれぞれ、その会社のカラーがある。その色に染まれる者だけがその会社に馴染んでいける。最初は、『生活のため』という共通項しかなかった人たちが、毎日を共にする内に家族にも似た波長を通いあわせていく。この作品の登場人物は、心に傷を負って闇を抱えているが、人に危害を与えるような悪人が居ないというのがいい。
自分もアクが強くて沢山の傷を抱えた人柄であり、今や『普通』という歯車から外れたマイペースな立ち位置にいるので、段々とこの映画の世界にに感情移入してしまっていました。

割り切って働くと心労ばがりが目に付くが、楽しみながら挑んでいければ、お金以外にも得られるものがたくさんある、という励ましを貰えたような気がしました。