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希望の灯りの海のレビュー・感想・評価

希望の灯り(2018年製作の映画)
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「百年後も夕焼けはありますか。」「うん。あるよ。ありますよ。あなたがそう望むかぎり。」ここ数週間、制服一枚じゃ寒くなってきた。会社から駐車場までの距離を歩きながら、ふと、百年後も夕焼けはあるだろうかと、いつもひとに向けてしてしまう質問を、自分自身に向けて問いかけた。そして、そうやって答えてくれたのは誰だったろうかと。夢の中であなたが、わたしに答えてくれたことばだった。わたしの中には、あなたに関して失えることが、まだこんなにある。嬉しい。でもそれ以上にさびしい。ただ同じ時間を過ごしたこと以外では何一つ繋がっていないあなたとわたしに、もうすぐきっと、もう二度と会えなくなるであろう別れが訪れます。叶わないと分かっていて灯した愛の中で、わたしはあなたに永遠のような夢を見ていた。あなたが好きです。でもあなたの幸せをいつだって心から祈り続けられるほどわたしは賢くない。あなたの不幸を願ったり、あなたをさらって、どこまでもさらって、そのまま逃げて消えてゆくだけの勇気もない。一生をあなたへの想いにささげたい情熱だけがあって、感傷がそれを邪魔する。先週、隣の席の人が会社に来なくなった。突然辞めますと連絡が来たんだと知らされた。いつか彼女に好きな作家を聞かれたとき、わたしは「泉鏡花の文章と、堂園昌彦の短歌がとても好きです」と答えた。後からミステリーが好きだと知ったから、次は乱歩かクーンツを挙げよう、とずっと思っていたのに、言えないままだった。わたしには、どうしようもないことばかりがある。きっと多くの人にそればかりがある。雨の日の駐車場。くすんだグリーンのワンピース。背中と手と声の抑揚。海をみている、海が聞こえる、大事なものを見落とさないようにわたしの中にあなたが居てくれた。くだらないの中を、くだらなくなんかないわたしたちがゆき、たった一輪の花、ほんの数秒間の波の音、心の真ん中にある椅子にあなたが座ってる。明ける夜しかないけれど、巡り来ない夜もない。好きなひとは雨に似ている。いつも濡れていてきれいで、やさしい。どうしようもないことばかりがある。あなたが好きです。ゆっくりとわたしをほどいて泣かせる、冬の夜よ。
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