KO

空母いぶきのKOのネタバレレビュー・内容・結末

空母いぶき(2019年製作の映画)
1.7

このレビューはネタバレを含みます

 いつだか酷評されてるのを見て、なんとなく観てから記録に残したくなったので再び観てみる。
 役者さんの演技には引き込まれるがそれ以外は観ていて悲しくなってしまった。
 コンビニのシーンは緊張感をぶち壊しにしてるし(だが筆者はDCカードのCMみたいなので気に入っている)、CGのシーンは出来・不出来の差があまりにも大きい。見せ場であろう空戦の場面や爆炎や煙の出る場面、甲板での場面、そして潜水艦が浮上する場面はゲームのムービーやバラエティ番組の再現CGのようだ。予算も技術も人も時間もないのは仕方がないが、もう少しどうにかならなかったのだろうか?
 そしてエンタメ作品なのでこんなことを言うのは無粋だが、製作側はどれほど事前の下調べをしたのだろう。自分が無知なこともあるが、理解に苦しむ描写があまりにも多かった。政府は自衛隊に防衛出動を命じてもそれを国民に公表せず、閣議で「対応を誤れば内閣は吹っ飛ぶ」と発言する閣僚もいる。普通に考えれば自衛隊が他国の軍隊と衝突していることを公表していない時点で対応を誤っているのではないだろうか。新興国に他国の支援やアメリカ仕込みの用兵思想があったとしても、60機もの戦闘機(英・仏軍の空母の艦載戦闘機よりも多い)を搭載できる空母を運用することなどできるのだろうか。それに自国と衝突のリスクがある国であるにも関わらず、支援国を政府が特定できていないことも問題ではないだろうか。肝心の空母には上陸部隊が描写されていなかったが、初島到着後に拘束された海上保安官を武装集団から救助することはできるのだろうか。米中露が三すくみであるにも関わらず、短期間に前例のない国連軍を編成し、しかも魚雷を発射して介入することは可能だろうか。そもそもなぜ衝突したのかを考えると「海上保安官が拘束される→空母を派遣」というエスカレーションコントロールをまるで考慮しない対応が、東亜連邦の軍事介入の口実となったのではないだろうか。同盟国アメリカが自衛隊に向けて魚雷を撃ったのは日本政府の対応に呆れ果ているか、あるいは米中露首脳会談が「そういう会談」だったのではないだろうか。
 そして製作された背景にも疑問は尽きない。読んだことはないが原作では中国との衝突や自主防衛のあり方が描かれているという。しかし、映画では中国に配慮して架空の国との衝突が描かれており、自主防衛の描き方も「自主防衛なんてできない!」という描き方をしているようにしか思えない。そもそも原作の内容から、中国での公開を考えていたのであれば、正直に言ってセンスを疑ってしまう。不満ばかり話してしまったがこの映画が製作されて1番得をするのは誰だろうか。不可思議な描写に悩まされる観客でもなく、ダイナミックで熱意のある演技が台無しにされた役者さんたちでもなく、存在を忘れてもらえた某国政府でもなく、多くの読者に日本のあり方を問うた原作者でもなく「人気漫画を実写化すれば儲かるだろう!」と考えた映画会社ではないだろうか。この映画が示してくれたものは「映画の楽しさ」や「日本のあり方」ではなく、安易な実写化はやめたほうがいいということなのかもしれない。
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