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空母いぶきのxyuchanxのネタバレレビュー・内容・結末

空母いぶき(2019年製作の映画)
2.8

このレビューはネタバレを含みます

2019年最後の一本を大晦日に。

潜水艦モノの名作コミック「沈黙の艦隊」の著者、かわぐちかいじさんの原作を愛読してる身としては、この作品は原作と自衛隊への冒涜レベルに思えるほどリアリティを感じられず、ダメダメでした。

それでも、多くの人が知るべき視点だし、おそらく原作を知らない人にとっては十分面白い作品だと思うので完全ネタバレで。

以下、本作を観た後で、知ってほしいなと思うところだけ書きます。

・原作では相手は中国で、尖閣諸島、多良間島、与那国島を占領され一般人も捕虜になり、宮古島も攻撃を受ける。アメリカは”我関せず”な対応。

・自衛隊に実在するヘリコプター搭載護衛艦「いずも」を改良して、F-35戦闘機も載せられるようになったという設定だが、実際には自衛隊は攻撃力を持つべきではないという議論が根強く、戦闘機は搭載していないし、"空母"とも認めていない。

・そこをあやふやに描いているせいで、原作が丁寧に描いた専守防衛が感情論になってる気が。
 劇中でも敵国の空母一隻で60機に対して、いぶきは15機。空母無しで制空権を押さえることは非常に難しい。
 専守防衛に徹する自衛隊にとっては、離島を一島でも占領され人質にされた場合、圧倒的に不利になる状況。
 原作のテーマは、自衛隊員に犠牲が出るか否かや、その後の国際政治への影響だけじゃなく、一般人が犠牲になる具体的なリスクに対して、国としてどう対処すべきか。離島を占拠される事態で妥協した場合なにが起こりうるか。

・自衛隊がこんなにマヌケなわけがない。
空母にマスコミ乗せて自由に動かせる。
救助した敵国パイロットを拘束してない。
  艦長と副艦長が隊員たちの前で口論しまくる。
つーか敵国もハープーン持ってるだろ。

・官邸の議論が茶番すぎ。首相のキャラも邦画ステレオタイプ。
外務省の外交努力や、マスコミ対応がサラっと。あれじゃ難しさが解らなそう。
 なかでも、最後のセリフが"あと3年やっていいか?"なんて。

・国連軍が魚雷で仲裁する?しかも中国がそこに混ざっている。他国や国連に頼るのではなく自国にキチンとした防衛力、牽制力を持つべきだという原作の視点を壊してる。

・圧倒的なCGクオリティの低さ。

原作の主張は、戦争を最低限の軍備で"避けられる力"を持つべきだという事であり、それに必要な要件を国民がみな知っておくべきだという事であって、けして軍備を増強すべきだという事でも、命の大切さといった当たり前な感情論でもありません。

映画化してくれたこと自体はすごい事なんだけど、結果の中途半端さが残念。同監督の次回作がまた心配です。
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