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バーニングの0000のレビュー・感想・評価

バーニング(1981年製作の映画)
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けっこう前に観たときに「完璧な映画だ……」みたいに思ったんだけど、それはなんでなのか考えると、要するに「純度の高さ」みたいなもんで、余計な作り手の思いとかメッセージとか欲望みたいなものがない。ミラマックスつまり今や性暴力騒動で悪名高いワインスタインの若き日の最初期プロデュース作で、この映画はティーンのおっぱいなどのエロ要素が無駄に入ってる感もあるんだけどそれも確か騒動より前の時点で監督が「無駄におっぱいとか入れたくなかったけどプロデューサーの圧で入れた」みたいなことを言ってたのをどっかで読んだ気がする(うろ覚え)。なのでプロデューサーの欲望は入ってるんだけどあくまでプロデューサーなので間接的なのである。監督の眼差しはおっぱいに対しても冷めてるっていうか。いや冷めてたらそれはそれで無駄な要素になるんだけど、ちゃんと出演者たちへの優しい眼差しの範囲内で撮られてる感じがあって無駄感はない。そう、優しいんである、この映画の眼差しは。殺人鬼に対しても例外なく優しい。例えばティムバートンが撮った異形者と同じ感じで優しい。そしてサマーキャンプの参加者であり犠牲者のティーンたち、オタクくんにもリア充たちにも分け隔てなく優しい。だから差別がない。平等なんである。平等に人が死ぬ。いくら無差別殺人鬼といっても、物語というものの中ではドラマツルギーみたいなものが発生せざるをえないわけで、最初にビッチやいじめっ子が殺され、嫌な奴ほど無惨に殺され、うぶないい子が生き残る、みたいな差別が、物語には往々にして発生してしまう。あるいはその逆張りで「外し」をやってみせるとか。そういうのは無意識にでも作り手の欲望とかフェティシズムとか、ルサンチマンとか悪意とか、あと普通にテーマ性とかの表出として起こる。でもこの映画にはそういうのがぜんぜん出てない。一応はそれに近い(エッチなことしたら死ぬ、とかの)セオリーに沿ってるようなところもあるけど、でも犠牲になるキャラに対する悪意みたいなのが作り手にない。天罰だ、天誅だ、因果応報だ、みたいな感じがしない。なぜかというと単純に、監督が完全に職人に徹してるからで、表現で何か発散しようみたいなのが全然ないからで。あとドヤ感みたいな、てらいみたいなのも全然ない。ただ映画館に観に来た若者がワーキャー楽しめる映画になればいいなーくらいで、そこにだけ才能を投入してる感じがある。で、出演者たちに対しても優しい。たぶん「この子らの楽しい思い出になればいいなー」って感じで撮ってる。知らんけど。でもそれが大事で。青春真っ只中のティーンの俳優たちに対して「ゲヘヘヘ」とか「リア充死ね」みたいなのはなく、微笑みながら優しく見守ってる感じで、キラキラ若さ溢れる若者たちが演技する様子のドキュメントをカメラに収めてる。ボートで競争してるなんでもないシーンなんかが出色。エッチなことした後殺される登場人物たちにも「クソッ、殺されればいいのに」と観客に思わせるような演出で撮ってない。みんなちゃんと人生の主人公っていうか。それでいてちゃんと等身大のクソガキでもあるというか。でも観客が心のどっかで「いいなー」とか思うか思わないかくらいの感じだけ出させて、それで殺される。ちゃんと「ざまあ」だしそれでいてちゃんとかわいそうでもある。性格悪い奴も「性格悪い奴というかわいさ、残念さ、出来の悪い子」みたいな眼差しで、親が子を見るように撮ってる。性格悪くてもリア充でも生き残る子は生き残るし死ぬ子は死ぬ。そういう悪い子がいない世界という意味で平等なのではなく、いい子も悪い子も強い子も弱い子も普通にいる世界への眼差しが平等で、平等に優しく、平等に残酷で、それは優しい残酷さなのだ。サマーキャンプの青春模様の群像劇(例えば『アメリカングラフィティ』のような、一見たわいないような、もっといえば『ディアハンター』前半の結婚式シークエンスくらいの無造作感)に「殺されるか、殺されるかー、殺されなかったー」みたいな殺人鬼主観演出の「だるまさんが転んだ」みたいなのがぶち込まれるだけというその素晴らしさ。ある種コンセプチュアルでもあり、洗練の極みでさえある。ファイナルガールなんてセオリーもこの映画には存在しない。最終的に主人公化するのはオタクくんだけど共闘するのが実は事件の元凶みたいな陽キャ青年だし、その青年も普通に生き残る。クライマックスで女子蚊帳の外。それも逆を張った感じでも全くない。全てがさりげなく自然で無造作、無作為。湖畔のキラキラした自然をカメラに収めた実景ショットと平等に人物も撮られてる。それでいて直球のスラッシャー。ベタベタの娯楽映画、商業映画、エクスプロイテーション。トムサヴィーニの本格特殊メイク。イエスのリックウェイクマンによる音楽。編集が後の『ヒドゥン』監督ジャックショルダー。
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