おなべ

華氏911のおなべのネタバレレビュー・内容・結末

華氏911(2004年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

本作は腐敗したブッシュ政権、9.11の裏側、国家システムの恐ろしさを批判的に描いたドキュメンタリー映画である。

《ショーン・ペン》《ドリュー・バリモア》の他に《マドンナ》に関しては自身のライブで「華氏911最高!」と絶賛の声を寄せている。

何も分かってないフリをしながらも核心を突いた鋭い指摘で、皮肉を交えたユーモラスな演出に関しては本作でも相変わらず《マイケル・ムーア》節が炸裂していた。
さらに、監督ならではのアポなし突撃取材は、ホワイトハウスから危険人物に指定される程の影響力を持つようになったそう。加えて、当時《ブッシュ》大統領がゴールデンラズベリー賞にノミネートされるという前代未聞の珍事件を巻き起こした。

しかし、明らかな《ブッシュ》批判の為の作為的な編集が論争を呼んだ。ドキュメンタリーと称しながら、監督によって印象操作が為されている可能性が浮上したからだ。しかし、監督は違法な情報操作はしておらず嘘の内容も捏造していない。したがってポリティカル・マニフェストの立場で映画を制作している事を念頭に置いて鑑賞して欲しい。

本編は2000年アメリカ大統領選挙についての真相追及から始まる。当時大統領候補はブッシュの他に《アル・ゴア》という人物が存在したが、権力者の従兄弟の手助けや黒人の投票権が不正に奪われたりと、ブッシュは様々な不正を使って大統領選に勝利した。しかし、就任後も支持率は常に下降し、その背景として就任から9.11までの8ヶ月の間42%休暇を取っていたという事実が原因の一つとして挙げられた。これに対しブッシュは「仕事の定義が違う」と反論しさらに国民を怒らせたのである。

2001年9/11世界貿易センターで《オサマ・ビン・ラディン》らテロ組織による同時多発テロが勃発。3000人もの人々が犠牲になった。しかし、同時刻に小学校を訪問していたブッシュ大統領は、知らせを受けても何をする訳でもなく小学校に居座り続け
何も動かなかった。また、テロが起こる以前に主犯のアルカイダによる「航空機による米国本土攻撃を計画中」という情報を耳にしていたという事実が判明。これではテロを楽観視していると言われても仕方ない。

さらに衝撃の事実が判明。実は当時のアルカイダなどの組織はサウジ人で構成されていたがそのサウジ国から14億の資金提供を受けており、同様にアルカイダに資金提供を行なっていた。勿論《オサマ・ヴィン・ラディン》率いるハイジャック犯の内15人がサウジ人である。衝撃の事実はこれだけではない。ブッシュ大統領は独立調査委員会の設置、公開調査報告書を悉く拒否し、テロの主犯である殺人犯達に2ヶ月の猶予を与え、テロが起こった9/11の僅か2日後にサウジ大使と食事をしていた。即ちブッシュとヴィンラディン家は裏では利害関係が一致していたのである。これらのサウジ国との密接な関係は米国経済の6〜7%をサウジ王国が掌握している状態を意味していた。

同時多発テロから4週間後、アメリカはアフガンに対し空爆を行うが現地に送られた兵士は極めて少なく、その他諸々の政策に関しても威厳とは裏腹に消極的な政策しか行わなかった。対応に出遅れたばかりか《オサマ》《タリバン》《アルカイダ》を取り逃がす結果となった。

政府は国民を混乱に陥れた上に、自由に警戒度を調節し悪どい手口で恐怖を煽ってこう叫んだ「テロに備えて!」と。テロの存在を知っていながら見て見ぬ振りをしていたのはどこのどいつであるか。

国民の保護と称し[ライター・ジムの老人平和団体・母乳]までもテロの危険性があるとして規制し、予算削減という名目で自国の警備も疎かにされるなど矛盾した法案や政策を施行した。

2003年3/19、ブッシュはイラクを侵攻。米国を脅そうともしてないし、一度も攻撃したこともない国だ。これにより多くの無実の民間人が殺された。引き続き《サダム・フセイン》を理由に政府はありもしないテロの脅威を主張し続けた。

また、驚くべき理由で政府は戦死した兵士の棺を報道しなかった。その理由とは「今戦っている兵士の士気が盛り下がるから」という理由でだ。真正面から武力衝突を望む姿勢で政治を動かしているブッシュ大統領は、イラク侵攻の正当性を国民に訴えたが、当初は核兵器や化学兵器などイラクにそんな開発能力はないと言っていたにもかかわらずイラクを攻撃し、ブッシュの訴えもあり国民の大半はそれを正しい行為だと信じさせられた。当初と言ってる事が違う上、的外れもいいとこだ。さらに「人道的配慮は充分行なっている」と公表。事実、多くの民間人が犠牲になっていた。どの口が何を見てそんな嘘を言えようか。

大統領の嘘を基に無垢な若者が戦場に送られ、政府は退役軍人に対する手当を排除、減額し、まともな治療もできないのが現実だったそう。即ちブッシュ大統領は「心が痛む」と表向きの建前を述べ、実際にそれを改善しようとはしなかったのである。まるで、大戦中の大日本帝国軍と同じではないか。これに対し無意味な罪悪感と憤怒に駆られるという声が募った。

意義ある戦死ならまだ報われるが、本人達も今の無意味なイラク侵攻を疑問視していたと言う。まるで無駄死にではないかと。その影には軍需ビジネスは儲かるという軍需産業の闇が存在した。上層部はイラク戦争で儲けた金でパーティを開いていたのである。

監督はイラク戦争で息子を亡くした女性にインタビューした。すると女性は息子の死後、若者を入隊させ、行きたくもない無意味な戦争に派遣するおかしな政策を疑問視し、「息子を戦争に派遣したのは敵ではなく政府だ」と主張した。

監督は直接国会に出向き、議員達に「息子を入隊させないか?」と軍隊へのリクルートの書類を配って勧誘した。何故なら、全議員の中で身内(子ども)を戦争に行かせているのはたったの1人しかいないからである。しかし、監督の呼び掛けに応じる議員は1人としていなかった。即ち戦争を決めるのはいつもブルジョワで、戦地に行くのは貧しい国民であるというおかしな構図が出来上がっているのだ。

振り返ってみるとあらすじを辿りながら感想を書き記したレポートのようになってしまったが、少なくともブッシュ大統領や政府がいかにいいかげんな政策を行って来たか、何故 腐敗政権と呼ばれているのか、本作を通して理解できた。

これでも尚「作為的な編集」の方が悪いと言えるだろうか。
おなべ

おなべ