半兵衛

淫獣の宿の半兵衛のレビュー・感想・評価

淫獣の宿(1973年製作の映画)
4.0
ピンク映画との差別化を計るため(実はピンクも初期には若松孝二監督がアメリカまで行って撮ってきた映画があったりするが)、わざわざスウェーデンまでいって撮影してきたオール外国人の一見北欧ポルノっぽいけどスタッフといいその実態は純粋なロマンポルノの一作。でもこの映画の凄いところは海外まで出張した映画によくある、役者は豪勢だけど中身はスカスカだったり作品のボルテージが維持できなくなり中弛みしたりということが無くて、面白くて結構出来がいいという点。慣れない環境でポルノを撮るという無茶を実現してしまった西村昭五郎監督たちスタッフの手腕に改めて感服する。あと北欧の風景を見事に捉えた安藤庄平のカメラが作品のグレードを上げている。

内容は町外れの屋敷に住む主人公一家のもとに脱獄囚が訪れるというよくあるサスペンスものだが、一家が実は誰も働いておらず遺産を食い潰し主人公の娘を除いて食事とセックス(しかも父親は住み込みで働くメイドと、母親は義理の息子と関係をもっている)という快楽のため生きる堕落した人間たちばかりというのがポイント。そのため脱獄犯たちが彼らの行為にしばしば「なんなんだこいつら!」と驚き常識のある側になってしまうという中島丈博の脚本らしい悪意に満ちた世界観がインモラルな刺激となって楽しめる。母親が変態セックスが大好きで、最中に野獣のようなあえぎ声を出しまくったり、義理の息子を緊縛してプレイしたり、父親に脱獄囚の服を着させ擬似強姦プレイをやったりと悉く良識がないところがインモラルの度合いを深めていく。そして一家に影響を受けてしまった脱獄囚グループが自滅していく展開もブラックで面白い。

主人公の娘は常識の欠片もない一家に対し呆れており、ここから脱出しようとする願望を持っている。ただ彼女はその勇気がなく一家とだらけた時間を無駄に過ごしていたが、脱獄囚の出現からその内の一人と関係を持ったことでその感情が一気に加速していく。ただ中島脚本は「そんな童話みたいなこと出来るわけないじゃん」と言わんばかりに彼女の希望を悉く潰していくところや家を出た娘のその後を描かないところが悪意がありすぎて最高。

止めはラスト、まるでブニュエルのような皮肉的なエンディングに思わず苦笑。と同時に『狂った野獣』のような「犯罪者より庶民の方が足に地がついている分強い」というメッセージも汲み取れる。

若い女性二人と熟れた肉体の女性によるエロシーンは充実していて海外ポルノを見ている気分になるが、音楽は70年代のロマンポルノらしい楽曲のため珍妙な気分になってくる。
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