かすとり体力

アイネクライネナハトムジークのかすとり体力のレビュー・感想・評価

3.8
伊坂幸太郎原作の連作短編小説を今泉力哉監督により映画化。この時点で面白そう。なんで今まで観てなかったんだろう。

今泉力哉節が炸裂していてかなり良かった。

「不器用な存在」としての人間。
そして、「恋愛」という、その人間の不器用さを増幅させる挙動。
「不器用×不器用」につき、恋愛って原理的にわちゃわちゃするんだけれど、その不器用さとわちゃわちゃ、それこそが人間だよね、と温かい目線でインクルーシブに描く。

これぞ今泉力哉節。
なので今泉監督作品はどれも哀しいし、可笑しいし、温かい。
本作では、この監督の色とストーリーラインが絶妙にマッチしていた。

本作のテーマは「出会い」とよく言われているが、もう少し踏み込むと「因果律」の話だと思う。

主人公の親友・一真が語る「恋愛において、『劇的な出会い』なんて重要じゃない。相手との関係性を紡ぐ中で、『あぁ、この人と出会えて良かったな』と思えることこそ大切」というテーゼ。
これは真理でしょう。

ロジックで語るに(それが美しい行為かは置いておいて笑)、この世界は超絶複雑系で、人知を超えた因果律の集積において成り立っているわけで(バタフライ・エフェクト的な)、「出会い」とかいう因果律の起点に着眼することにあまり意味がないのな。

だって、その人との劇的な出会いがなかったら、もしかしたらもっと自分にとって素晴らしい人との出会いやその先の人生があった可能性は論理的に否定できない故。

そうなるってぇと大切なのは「結果」であって、即ち「今の自分がこの人と一緒にいて幸せかどうか」。
これが担保されていると、その因果律の起点としての「出会い」に、事後的に大切な意味が付加されてくる、という。

だからこそ、出会ってもないうちから、将来の出会いの「劇性」みたいな虚妄に着眼しても意味ねぇよね、というお話。

で、こんな身も蓋も色気も無いロジックで語っても人には何にも伝わらないから(笑)、
それを物語の中に落とし来んで、可笑しく、切なく語ってくれているのが本作。

やっぱ物語って重要だ。

加えて、本作で描かれる因果律の深さ(適度な浅さ)も個人的な好みとしてとても良い。

こういう群像劇的なものって、物語のラストで登場人物全員が大団円的にガッツリ絡み合う、みたいな作劇がされることも多いと思うが(伏線回収的に)、本作はその絡み方が広く・浅く、というノリ。

ここが非常にリアルと言うか、我々の生活においてもこれくらいの関係性の集積はたまにあるし、これくらいのライトな関係性の中で人間同士が影響し合ってプラスに作用し合う感じが、「やっぱり人間って良い発言・良い行動はちゃんと周りに伝播するので、俺もちゃんと生きよ」と自分事に落とし込みやすくなっているように感じ、純粋に好みだった。

ということで、期待通りの作品でした。

同監督最新作の『アンダーカレント』が楽しみ過ぎる!
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