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ともしびのmのレビュー・感想・評価

ともしび(2017年製作の映画)
3.5
静寂の中に怒り・不安がそこかしこに溢れる作品。目を背け続けたものが次々と振りかかる、丁寧に描かれた作品。

まずは完全にフランス映画です。明快な答えを望む方は退屈だと思う。作品の中で説明は無く、セリフも少ない。完全に観客に優しく無い作品であり推理力が求められる。ただとっても丁寧。あるひとりの女性の人生をじっくりと只管追いかけていて感情移入しては泣けてくる。

ベルギーのある小さな都市で、夫とともに慎ましやかな生活を送っていたアンナ(シャーロット・ランプリングさん)だったが、夫が犯したある罪により、穏やかだった生活の歯車が少しずつ狂い始めていく。そんなストーリー。

まず作中でなぜ夫が逮捕されたのか明快な答えは描かれない。開始5分くらいでアンナと夫の食事シーンが描かれている。その時にふと消える電球。アンナは驚くことなく、夫が静かに電球を交換する。この凍りついた雰囲気が素晴らしかった。既に収監されるというのが決まっている食事シーンなんだろう。気まずい。全編でそんな感じで観客に考えさせ続ける作品。

夫が収監されてからも変わらず仕事をし、花を生け、プールで体を動かす。淡々と日々のルーティンだけを行うアンナ。そこには現実を直視したくない彼女の孤独が表現されている。どんなことがあっても人生は続いていく。今までの人生とは似て非なるものが続いていく。それにアンナは静かに立ち向かっていく。目を背けながらも。(邦題、そういう意味では好き)

アンナは自分の息子からよく思われていなく、孫の誕生日に追い返される。そのあとにトイレの個室で感情を乱して泣き叫ぶ。私はこのシーンがあまり好みでは無かった。今まで丁寧に描いてきたのにそこだけあからさまなオーバーリアクションで冷めてしまった。シャーロット・ランプリングさんの演技力に頼って沈黙とかでもよかったと思う。
買ってきた花のめしべをへし折ったり、演技が出来なくなったり、犬に無理やり餌を食べさせたり(母性の表れ)と静かながら怒りが滲み出ている箇所があったから、そこと同じにしてもらいたかった。
そう考えるとシャーロット・ランプリングさんの演技力には脱帽する。やはり素晴らしい。

生活音が溢れていたのがまた味がある。
面白かった。

ストーリー : ★★★★☆
映像 : ★★★☆☆
設定 : ★★★☆☆
キャスト: ★★★★☆
メッセージ性 : ☆☆☆☆☆
感情移入・共感 : ★☆☆☆☆

cc/わたしはあの時、いったい何を失ったのだろう──。
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