MasaichiYaguchi

ザ・ビッグハウスのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ザ・ビッグハウス(2018年製作の映画)
3.7
想田和弘監督のナレーションやBGMを排したドキュメンタリーの手法「観察映画」の第8弾で取り上げられたのは、10万人以上の収容を誇る全米最大のアメリカンフットボール・スタジアム「ザ・ビッグハウス」。
このスタジアムはミシガン大学のアメリカンフットボールチーム「ウルヴァリンズ」の本拠地で、このホームでの試合が開催されると恰も地元総出の“お祭り騒ぎ”になる。
それにしても、このアメリカのスケールには圧倒されてしまう。
都内で最大級の競技場としては、間もなく公開される新国立競技場になるが、それでも6万人であり、だから「ザ・ビッグハウス」で開催される試合で毎回10万人集客していることに驚きを禁じ得ない。
本作では試合前のバックヤード、運営スタッフ、厨房スタッフ、警備スタッフ、医療スタッフの戦場のような状況が映し出される。
一つのミスやトラブル、更に想定されるアクシデントに対処出来るように万難を排して準備するスタッフに流石だと思うのと同時に、ここまでやらないと何かあった時にパニックとなり、大惨事を招きかねないからだと思う。
そして当たり前のことだが、試合が終わった後のゴミ拾いを含めた清掃も人海戦術でやらないと到底無理だと思う。
「ザ・ビッグハウス」のドキュメンタリーからは、恰も今のアメリカ社会の縮図を見ているような気になる。
アメリカンフットボールの花形選手達、それを率いる人気監督、試合を盛り上げるチアリーダーの美女達、大編成のマーチングバンド、試合展開に一喜一憂する熱狂的な観客等の“光”の部分に対し、ダフ屋を含めスタジアムの周りで物売りする人々、陽気に金銭を乞う者という“闇”の存在、試合が盛り上がれば盛り上がる程に陰影が顕になる。
終盤でミシガン大学を支援する有力寄付者(スポンサー)の会合が出てくるが、会場には白人ばかりが目立ち、逆にスタジアムの周囲の物売りの大半は有色人種だった。
そして、このドキュメンタリーで記憶に焼き付いたのは、トランプ大統領への支持を表明した派手な山車がスタジアムの側を通ったシーンだった。
恐らくアメリカ人にとって、アメリカンフットボールチームを含めミシガン大学は“光”であり、理想とする強く正しい存在なのだと思う、たとえその周囲には目を背けている“影”や“闇”があったとしても。