ひろぽん

博士と狂人のひろぽんのレビュー・感想・評価

博士と狂人(2018年製作の映画)
3.7
貧しい家庭に生まれ学士号を持たない異端の学者マレーと、エリートでありながら精神を病んだアメリカ人の元軍医で殺人犯のマイナー。2人の天才は、辞書作りという壮大なロマンを共有し、固い絆で結ばれていく。だが、犯罪者が大英帝国の威信をかけた辞典作りに協力していることが明るみとなり、内務大臣ウィンストン・チャーチルや王室をも巻き込んだ大きな出来事へと発展していく実話に基づいた物語。


19世紀のインターネットのない時代に『オックスフォード英語辞典』をいちから編集し、語源をシェイクスピアの時代まで遡り、民間人からボランティアを募って完成させようとした大計画の誕生秘話を描いた壮絶なお話。

辞典の編集主幹を任された博士号を持たないが、言葉の語源まで説明できる知識に富んだマレーと、戦争のPTSDを抱えて罪なき人を誤って殺してしまった精神科施設に収容されているマイナーの、2人の運命的な出会いが辞典作りに大きな影響を与えていく…

0から手作業でボランティアに募集した言葉の語源と意味を紙に綴り、気の遠くなるような作業をしていたマレー率いる編集者たち。作業に行き詰まっていた時に、神の如く大量の資料を送付してきてピンチを救ってくれた出来事から関係性を深めていくマレーとマイナーの2人の友情。

壮大な規模の辞典編集がメインかと思いきや、編集に関わったマレーとマイナー、その周囲の人間関係に焦点を当てている。特にマレーというよりは、マイナーの贖罪と愛情についての心の葛藤が強く描かれていた。

もう少し壮大な辞典作りの苦労と、2人の友情が育まれていく様を長めに見たかったが、色々詰め込みすぎて尺が足りなかったんだろうなと思う。

ショーン・ペン演じるマイナーの狂人さはとても強烈で、圧倒的な演技力と存在感を感じた。彼が殺してしまった男の妻であるイライザと徐々に心の距離を近づけていく愛は美しいが、夫を殺され許し愛せるイライザの人間性も凄いなと関心してしまった。許されても許されなくてもマイナーは一生罪の意識を背負って生きていくのだから、どちらにせよ辛いままなのだろう。

タイトルの「博士」と「狂人」は、それぞれの事を言ってるのではなくて、マレーとマイナーの2人ともに当てはまる言葉なんだろうなと思った。

マレーとマイナーの心通わす大人の上品な言葉遊びは、英語をよく知る人ならその面白さが理解できるのだろうけど、聞いたこともないような単語が多々出てくるので自分にはその面白さが理解できなかった。

登場する言葉の表現はとても素敵なものばかりで勉強になる。言葉は時代によって変化し意味合いも変わっていく流動性のあるもの。

前半の辞典制作のワクワクから一転して、後半はずっと重苦しい雰囲気だった。重厚感溢れるが、悲しくも美しい作品。


“I've gone to the end of the world on the wings of words. ”

「言葉の翼を持てば世界の果てまで飛んでいける。」
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