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博士と狂人のカポERRORのレビュー・感想・評価

博士と狂人(2018年製作の映画)
4.3
【辞書編纂ユニバース ~後編~『博士と狂人』】

『博士と狂人』
監督:P.B.シュムラン、出演:メル・ギブソン&ショーン・ペンのW主演で送る、2018年公開の重厚なドラマ作品である。
前回紹介した『舟を編む』同様、辞書編纂に取り組む人々の物語だが、その主題もアプローチも作風も大きく異なる。
19世紀、独学で言語学博士となったマレーは、オックスフォード大学で長年遅遅として進まないオックスフォード英語辞典の編纂を任された。
だが、それは、シェイクスピアの時代まで遡り、世の全ての英単語を収録するという途方もないプロジェクトだったのだ。
マレーは市民ボランティアに単語収集を呼びかけるも、作業は難航。
そんな中、思わぬ所から救世主が現れる。
マレーを救ったのは、戦争により心を病み、幻覚によって罪のない者を殺め、精神病院に収監されていた元軍医のマイナーだった。
精神疾患に身をやつしながらも、その言葉への類まれな執着心と天才的な記憶力によって、無数の書物からありとあらゆる英単語を拾い集め、マレーに送り続けるマイナー。
学士号を持たない叩き上げの博士マレーと、過酷な戦争体験で狂気を宿したマイナー…ふたつの孤独な魂が共鳴し、絶対に完遂不可能と思われた辞典編纂作業に光がさす。
しかし、これはやがて、ウィンストン・チャーチルや王室をも巻き込む波乱の幕開けだった。

本作、辞書編纂に携わる者の悲壮感や重圧が色濃く描かれていて、『舟を編む』とは真逆の、終始重苦しい雰囲気を醸し出している。
また、本作にてもうひとつの重要なテーマとなっている”殺人の加害者であるマイナー”と、”被害者の妻であるイライザ”、この二人の織り成すドラマがとにかく秀逸なのだ。
夫を殺されたイライザの、マイナーへの憎悪が、次第に愛情に変わってく過程…。
マイナーの心中、イライザへの慈愛の念と自戒の念との葛藤…。
これらが、この上なく繊細且つ丁寧に描かれ、二人の激情の振り幅は、観る者の心を揺さぶる。
私的には、ショーン・ペン演じるマイナーが、慚愧の念から、最終的に自身の局部を切断するシーンに、胸が張り裂けそうになった。
辞書編纂の作業自体のディテールよりも、関わった人々の生き様にフォーカスした描写や演出が実に奥深く、私の心の琴線に触れる特別な作品となった。

✤✤✤

◆言の葉サードインパクト
~高校2年 中村先生(仮名)との遭遇~
様々な言葉の魅力と出会いながらも、相変わらず学校教育における国語(読書や作文)には全く身が入らなかった私だったが、高校2年の時、現国・小論文の中村先生と出会い、その人生は一変した。
その年、学祭のクラスの出し物で映画を撮ることとなり、その企画書とポスターコピーを無理やり友人に押し付けられて私が書くことになった。
お客さんが来てくれるよう、面白そうなフレーズをあれこれ思案して書きあげた。
どうやらその企画書とポスターが、中村先生の目に止まったらしい。
小論文の授業終了後、私は中村先生に呼ばれてこう聞かれた。
中村「この学祭の映画のプレゼン文と、
   ポスターの『私の朝は“洗顔焼き”
   から始まる』ってコピー、お前が
   書いたのか?」
私 「あ…はい。」
中村「お前、実は物書くの好きか?」
私 「いや、そんなことは…」
中村「これ書いてる時、楽しかったろ?」
私 「…」
中村「お前の文章はな、破天荒でデタラメ
   だけど、読んでいて楽しいんだよ。
   それはな、一種の才能だ。
   いいか、これからお前は、好きな
   本を週に一冊読んで、その本の
   主題をテーマに、小論文を書いて
   毎週末俺のところに持ってこい。
   俺が見てやるから。」
自分が書いた文章を、生まれて初めて他人から「楽しい」と褒められた私は、その日から本の虫になった。
SFやミステリーにはまり、ホラーにものめり込んだ。
好きなジャンルなら本を読むのが苦にならないことを初めて知った。
そして、読んだ分だけ書いた。
書いて書いて、いつの間にか文章を書くことに生きがいを感じるようになっていた。
そうして、私のライフスタイルや考え方、趣味や嗜好、全てがガラリと変わった。
つまりは私の人生が変わったのだ。

マレーがマイナーと出会ったように、私は中村先生とめぐり逢えた。
ショーン・ペンのような男前ではないが、私にとって中村先生は永遠の恩師である。
中村先生、もしこのレビュー見てたらコメント宜しくw
あ、出来れば”いいね”もね(^^)

名作『博士と狂人』は現在U-NEXT、Hulu、TSUTAYA PREMIUMにて配信中。
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